中南米カップ 第7話
■夕闇の邂逅① -- フィールドのプレジデント -- ■
「まったくさっきのチリの2人と言い今回のイケメンチャラ男と言い、南米って濃い~ヤローばっかだな。」
と呆れる石崎。
午後5時に始まったフェスはそろそろ午後6時、メキシコの紅い太陽は黄金色の光を帯び始め、かなりその傾きを増してきている。
いわゆる"逢魔が時"、日本ではそう呼ばれる時間帯である。
一説によればこの時間帯、人はバイオリズムの関係で判断力や認知力が著しく低下するのだとか..。
と、突然背後で怒号が鳴り響いた。
「Que estas xxx xxxx ...!!」
振り返ると、なんと立花兄弟が凶悪そうな大柄の男に胸ぐらをつかまれている。
左右それぞれの腕で2人を掴みあげているのだ。
その屈強な両腕にはヒョウ柄のタトゥーが一面に施されている。
床には散乱するドリンクカップ。
どうやら立花兄弟の落してしまったカップの飲み物がその男にかかってしまったようだ。
軽量の立花兄弟は完全に地面から浮いてしまっている。
「お、おいっ、アレってコロンビアのジェペスじゃねーか?」
とギャラリーから声が上がる。
ツンツンと逆立った金色の短髪、その両サイドはヒョウ柄に刈上げられている。そして激情と攻撃性と感じさせる鋭い眼光。コロンビア代表フォワード、"野生の巨豹"と恐れられるダミアン・ジェペスだ。
「放せ、このヤロー!」
とジタバタする2人だが、屈強な腕のその男はなかなかその手を放そうとしない。
と、九州の元不良少年・次藤 洋が
「その辺にして薄汚い手を放すタイ。」
とその男の腕をグイと下ろす。
ケンカ慣れしている次藤、迫力でも体格でも負けてはいない。
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ジェペスは、フーンと言うように次藤を一瞥すると立花兄弟を地面に叩きつけるようにブン投げて"手を放した"。
「貴様!!」と激昂しジェペスに掴みかかろうとする次藤。
しかしすかさず
「やめとけ、次藤!」
と言う声がハモり、次藤はモーションを止める。
立花兄弟だ。
身の軽い2人はどうやらうまく受け身をとったようで特にダメージは負っていないようだ。アクロバティックな動きでピョコンピョコンとそれぞれに飛び跳ねて身を起こす。
ホッとする日本イレブン。
その傍らでは、次藤が立花兄弟を助ける一方で弓倉が密かにスマホを構えその一部始終を録画していたのだが、その視界が不意に遮断される。
いつの間にか小柄な猿のようなコロンビア人が視界を遮る位置にそれとなく立ちはだかっている。
チラリと一瞬その事を見て取ったジェペスはなんと不意に次藤に殴りかかる。
「コ、コイツ!正気か!?」と日本イレブン。
が、その時
「Detenerlo!!」
と会場に重低音が響き渡り、ジェペスは思わず手を止めた。
声量が大きいだけでなく、低く恐ろしくよく通る声である。
その上、それほど高圧的ではないにも関わらずどこか有無を言わせない独特の説得力をはらんでいる。
「"プレジデント(大統領)" ディエゴ・ダルバロス!!」
とギャラリー。
声の主は、パラグアイ代表キャプテン、ディエゴ・ダルバロス。
中南米№1ディフェンシブハーフとして名高い男だ。
そのキャプテンシーの高さと絶対的な存在感から"フィールドのプレジデント(大統領)”などと称される事も多い。
そしてその後ろには次藤クラスのフィジカルを持つ大柄で屈強な選手が3人、静かな威圧感を湛えて控えている。
世界最高峰の堅守、と称されるパラグアイのディフェンス陣である。
ジェペスやペルーのピエロタとは対照的な飾り気のないシンプルで武骨な風貌の面々。
そこには実力に裏打ちされた実質本位・質実剛健という言葉がぴったりの重厚な風格が漂う。
と、そこに
「よっ、と!」
とコンドルのように軽くスピーディーにテーブルを飛び越えて登場する一つの影。
小柄だが快活で利発そうな佇まい。
どうやらダルバロスの大声を聞きつけて駆けつけてきたようだ。
メキシコ代表キャプテン、スピード・俊敏性を生かしたキービング能力に加え積極的にオーバーラップを仕掛ける超攻撃型のキーパーである。
相次ぐビッグプレーヤーの登場にすでに興奮気味だったギャラリーは、ここに来ての地元メキシコのスーパーヒーローの登場にもはや大狂乱である。
さらに彼に遅れること数秒、"アステカの5戦士"の異名を持つメキシコ代表のメインメンバーの5人も
「速えーよ、エスパダス」
などと言いながらエスパダスの周囲に駆け寄ってくる。
ルチャリブレと呼ばれるメキシカンスタイルのプロレスを取り入れたプレーを得意とする5人の選手を左右と背後に従える構図になったエスパダスは真っすぐにジェペスを指差して
「事情はよく分らないけど、ここメキシコの地でつまらねートラブルは許さねーぜ!」
と威勢良く言い放つのだった。