キャプテン翼 ◎◎灼熱の中南米カップ ◎◎

日向小次郎を中心とした日本イレブンが、コロンビア・パラグアイ・チリ・ペルーなど中南米の個性豊かなチームやライバルと対戦するオリジナルストーリーです!

中南米カップ 第16話

パタゴニアの暴れん坊

前半を終えたチリの控室は重苦しい空気に包まれていた。
終始試合を優勢に進めながらも最後の最後で1点のビハインドを負ってしまった精神的ダメージは思いのほか大きい。


ガコッ!とロッカーを拳で叩いて悪態をつくガッティ。
「クッソー、なんであんな奴らに。どうなってやがる!?」

そんなガッティをビジャーロがたしなめる。
「落ち着け、ガッティ。奴らは強い。それだけの事だ。」

ジャーロはさらに続ける。
「ドイツ・ブンデスリーガのワカバヤシだけじゃなく、FWのヒューガ、MFのユミクラ、マツヤマ、アオイ、こいつらも間違いなくワールドクラス。それにそれぞれのポジションに良い選手がそろっていてチームとしてのバランスもいい。」

少し間をおいてビジャーロは続ける。
「けど、後半はスタミナに勝る俺達の方が有利だ。それに俺達は逆境に強い。後半で俺達の真価を見せてやろーぜ!」
そう言い放つビジャーロの瞳は前半戦の試合中よりもさらに強い輝きを放っていた。
相手が強いほど、そして逆境でこそ、その真価を発揮する。それがビジャーロの特性でありチリイレブンの特性でもあった。

ジャーロの一声で気持ちを立て直したチリイレブンだったが、ジャーロの表情には一筋の翳りも見て取れた。
(ユミクラがあのツーステップスルーパスを繰り出せるとなると、自分が少し下がってユミクラをマークするしかない。そうなるとワカバヤシを攻略するカードが一枚足りない。)
それがビジャーロの憂いの理由だった。


と唐突に控室のドアが荒々しく開かれ、一人の大男が顔を出す。
アギラール!!」とチリイレブン。
試合前にビジャーロエスパージョ監督がちらりと話題にしていた選手である。

「やー、ワリ―ワリ―。ちょっと遅くなっちまったぜー。」
悪びれた様子もなく、そう言うアギラール
その大男にビジャーロはつかつかと歩み寄ると、
「バキイ!!」と鉄拳をくらわせ
「貴様!今頃、何しに来やがった!?」
と問いただす。

そんなビジャーロエスパージョ監督はたしなめる。
「まあ、待て、ビジャーロ。」
そして、アギラールに向かって
アギラール残念だがお前みたいにチームの規律を守れない試合に出すつもりは..」
ない、と言いかけた監督だったが、突如その口を止めて、まじまじと彼の風貌を眺めまわす。

荒野の荒い風に晒されてバサついた波打つ長髪、強い太陽の日差しに晒された灼けつくような褐色の肌、岩石のように固く引き締まった2m級の体躯、そして何よりも何かを渇望するようなギラギラとした強い眼光。

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「フーン。どうやら、放浪して野生を研ぎ澄ませてくるってセリフ、まったくの独りよがりの誇大妄想じゃあなさそうだな。」
エスパージョ監督はそう言うと、少し間をおいて続ける。
「ドイツ・ブンデスリーガのトップキーパー、ワカバヤシ、前半戦ではビジャーロのシュートを数本防いでやがる。
アギラール、コイツからゴールを奪えるか?」

「バチィーン!」と右拳と左手のひらを合わせ、ギラギラとした瞳をさらにギラつかせて
「当然だぜ。」と応えるアギラールだった。