キャプテン翼 ◎◎灼熱の中南米カップ ◎◎

日向小次郎を中心とした日本イレブンが、コロンビア・パラグアイ・チリ・ペルーなど中南米の個性豊かなチームやライバルと対戦するオリジナルストーリーです!

中南米カップ 第20話

■"SGGK"の由縁

その後、チリの攻勢はさらにその激しさを増していた。フルスロットルのはずのゾーンプレスは後半戦も30分以上経過しているにもかかわらず、さらにその激しさを増している。
一方の日本はさすがに疲れの色が見え始めている。
ゾーンプレスは仕掛ける方も苦しいが、仕掛けられる方も苦しいのだ。
「くそっ、コイツらのスタミナ、どうなってやがる...。」
どちらも苦しいとはいえ、走っている量は仕掛けているチリの方が遥かに多いはずだ。
にも拘らず、消耗が激しく疲弊しているのは明らかに日本の方だった。
能動的に"走る立場"と受動的・強制的に"走らされる立場"、そんな立場の違いもこの消耗度の違いに一抹の影響を与えているのかもしれない。

それに日本は、イレブンが絶対的な信頼を寄せていた若林がゴールを許してしまっている。
浮足立つ日本と勢いづくチリ。

必然的な流れ、とでも言うかのようにまたしてもチリにチャンスが訪れる。
司令塔ビジャーロのスルーパスを右サイドにスッと切り込んだピントが受け、素早く高いセンタリングを上げる。
そしてそこに走り込むのはもちろんチリ前線の暴れん坊アギラールだ。

速く高く、風に煽られるボール、しかしアギラールはそれに臆する事もなく、またしても旋回しながらジャンプ、そして今度はハイジャンピングボレーの体勢に入る。
しかし、その視界に入るのは、この難しいボールに対応しているもう一つの影...。
バキィィーッ!!
「あーーっと、これは若林君だっ!!若林君がアギラール君のトルネードハイジャンピングボレーを両手でがっちりと空中でブロック!!」
両手でしっかりとボールを掴み、アギラールのキックをブロックする若林。空中で吹き飛ばされそうになりながらもどうにか体勢を整えて持ちこたえて、しっかりとグランドに着地する。
「ワカバヤシィ...。」
ギリリと歯を鳴らすアギラール

観客席で松本香がつぶやく。
「さすがね、若林君。得点を許した後というキーパーにとっては精神的にもっとも苦しい時間帯の1つ。
若林君のように失点する経験が少なくプライドの高いキーパーならなおさらの事...。
そんな状況でこのファインセーブ...。」

その若林はイレブンに
「みんな、もっと前に出ろ!!気持ちが守りに入ったら負けるぞ、もっとラインを上げろ!」
とゲキを飛ばす。
「でもよ~。」と石崎。
(攻め込まれてこれ以上失点したらどうするんだよ~。)と言いたそうな顔の石崎に
「ゴールなら俺が死守する。」
ギン!と強い瞳で言い放つその雄姿には、言葉では形容しがたい絶対的な信頼感とプレゼンスが立ち顕われていた。

日本ベンチにはそんな若林を一人特別な思いで眺める選手がいた。
同じ修哲小出身の井沢である。

彼は小学生時代の修哲小vs南葛小、翼と若林が初めて対決した記念すべき試合の事を思い出していた。
この時の若林は試合終了直前に翼に得点を許してしまった後、精神的なダメージと自己中心的な判断から試合をボイコットして帰ってしまおうとしていたのである。
そんな若林が同じような状況でファインプレーを見せただけでなく、試合の流れを変えるような存在感を示している。

(あの勝負の後の数十年の間で若林さんが最も成長したのは技術でもフィジカルでもなく、「心」かもしれない。)
そんな事を思う井沢だった。

そんな若林のファインプレーとゲキによって、試合の流れは明らかに変わっていた。


中盤戦、特に試合終盤の中盤戦では絶対的な強さを誇るチリを相手にラインを上げた日本は互角に近い攻防を繰り広げていた。
調子に乗る石崎は
「よし!このままこっちもゾーンプレスを仕掛けるぞ!」
といってディフェンダーにもかかわらずハーフラインを超える位置まで上がってプレスを仕掛ける。
さっきの弱気な顔が嘘のようだ。
「はぁ~?」
となる日本イレブンだが
「よし!乗ったタイ!!」
と言ってこの試合、ディフェンスリーダーを務める次藤もこれに呼応する。
「チッ、仕方ねー。」
松山も中盤の選手に指示を出してこれに呼応する。
「あーっと、これはなんと日本もゾーンプレスを仕掛けてきました。ゾーンプレスvsゾーンプレス中盤にほとんどの選手が集まっての大混戦です!」
とアナウンサー。

日本は急造のゾーンプレスながらも個々の能力を生かしどうにかチリに食い下がっていた。

意表をつかれて一時浮き出し立つチリを相手に、得点には至らないもののオーバーラップした次籐が豪快なロングシュートを放ったり、サイドに切れ込んだ早田が決定的なカミソリパスを出したりなど得点をイメージさせるプレーもたびたび見られるようになってきている。
そして、急造ゆえに出来てしまった穴の部分は、器用でバランサータイプの沢田とそして松山が気合いで何とかカバーしていた。
そして、何といってもディフェンスラインを抜けられてしまった場合にも、若林が高い信頼性と安定感を感じさせるセービングでゴールを死守していた。

日本のこのハイリスクハイリターンの戦略?を成立させているのは間違いなく若林のプレゼンスだった。