キャプテン翼 ◎◎灼熱の中南米カップ ◎◎

日向小次郎を中心とした日本イレブンが、コロンビア・パラグアイ・チリ・ペルーなど中南米の個性豊かなチームやライバルと対戦するオリジナルストーリーです!

中南米カップ 第23話

■開戦!メキシコvsコロンビア

 

まもなくメキシコvsコロンビアの試合を迎えようとしているメキシコ・アステカスタジアム。

両チームの選手は、すでにそれぞれのベンチ近辺に集まり軽いアップを始めている。

開催国でもあり、サッカー熱も高いメキシコ、そして代表チームには、スター性抜群のミラクルキーパー・エスパダスに加えて、アステカ太陽の5戦士といった話題性の高いメンバーが肩を揃えている。

スタジアムの観客席はそんなメキシコのサポーターと彼らの派手で陽気な声援で埋め尽くされていた。

一方のコロンビアイレブンも自チームのベンチ近辺でアップを始めている。

ふだんは強気のコロンビアのフォワード・ジェペスもさすがに珍しく浮かない表情でつぶやく。

「チッ、これだけアウェイムード満載だとさすがに萎えるぜ。」

他のイレブンもそれに同調し、浮かないムードがチームを包み込んでいる。

と、そこにベンチの奥の少し暗がりになった位置から

「そうか?」

と静かだが鋭くよく通る声が届く。

 

日陰に身をひそめ獲物をつけ狙う獣のようなしなやかな肢体、頭に軽くかぶったダークトーンのパーカーの隙間からのぞく金色の長髪と鋭く光る左の眼光。

コロンビア・キャプテンのハメス・フォルテーザである。

彼はつぶやく。

「オレは試合が終わる頃のコイツらの顔を想像するとゾクゾクしてくるけどな。」

試合にコロンビアが勝利しメキシコサポーターが落胆する様子の事を指しているようだ。

 

それを聞いたジェペスは呆れたように

「ドSっすね。」

と返すが、しばらく考え込んだ後、気を取り直したように

「まっ、オレもッスけどね!」

と、開いた左掌に握った右拳をバチィン!と合わせて言い放つのだった。

メキシコの強い太陽の光の下、力強くそう言い放つジェペスの表情には、さっきまでの浮かない表情はすっかりと消え失せていた。

 

 

そして数分後、

ピィィーーーーーー!

高らかにホイッスルが鳴り響き渡り、

「さあ、いよいよ予選屈指の好カード、メキシコvsコロンビア、事実上の決勝戦では?という声もあるビッグマッチ、いよいよ試合開始です!」

とアナウンサーが告げる。

 

そして試合開始数分後、先手を取ったのは、メキシコだった。

前線にアステカ太陽の5戦士と呼ばれるタレントを揃えるメキシコが、息のとれたパス回しでコロンビア陣内へ攻め込む。

この5人の選手の内の3人は、先のワールドユース選手権の後に一旦はルチャ・リブレというメキシコのプロレスに専念するためにサッカーからの引退を表明していたが、この大会に関しては復帰を決意しトレーニングを重ねてきたのだった。

「あーっと、アステカ太陽の5戦士、ブランクを感じさせない動きでコロンビア陣内へ攻め込みます。」

とアナウンサー。

サッカーのブランクはあるものの、空中殺法や軽快で機敏な動きが特徴のメキシカンプロレス、ルチャ・リブレの世界で揉まれる3人の選手、逞しさと体のキレは以前よりも増しているようだ。

 

その内の1人、巨漢のミッドフィルダー・ガルシアにボールが渡ると、一際大きな声援が上がる。

「あーーっと、これは出るか~?太陽の5戦士のルチャ殺法!」

とアナウンサー。

このメキシコ・キック力No.1のガルシアが空中高くに上げたボールを、残りの戦士がアクロバティックな空中技でゴールを決めるのがメキシコの必勝の得点パターンなのである。

 

しかし、ガルシアが大きくボールを蹴り出そうとした瞬間、小さな影がよぎり、スッと気配を感じさせない動きで素早く静かにボールをかすめ取る。

「あーっと、コロンビアのミッドフィルダー・レルマ君、巧みにボールをかすめ取りました。」

とアナウンサー。

小柄な体にライオンのたてがみのような特徴的なカーリーヘア、開幕フェスでのジェペスの騒動の時に弓倉のスマホの視界を抜け目なく遮った選手である。

 

そのレルマと呼ばれた選手は、そのまま小刻みなピッチと少し変則的なリズムのドリブルを開始しメキシコ選手を翻弄する。

 

「なんだ、アイツは?」

と驚く観戦中の日本イレブンに、井出が解説を始める。

「アイツはミゲル・レルマ、年齢は翼さん達より2つ下の18才ながらコロンビアの司令塔に抜擢されたサッカーセンス抜群の選手なんだな。

派手な髪型に似合わず、周囲を生かしたりフォローしたりなんかの細やかな気配りや小細工が得意なバランサータイプの選手、コロンビア往年の名選手バルデラマを敬愛し、その髪型とプレースタイルを真似ている事から"バルデラマJr"なんで呼ばれているんだな。」

そのレルマは、密集する相手選手のチャージを巧みにかわしながら、選手と選手の隙間から糸を通すような細密なパスを通す。

 

そしてそこに勢いよく走り込むのは南米の巨豹ダミアン・ジェペス

190cm級の巨体、サッカー歴は浅く荒削りながらも、立花兄弟を片手で持ち上げるパワーとビクトリーノにも匹敵するスピードを併せ持つ、高さ・強さ・速さを兼ね揃えた大器である。

 

彼は、「行くぜ、エスパダス!」

と言うとトップスピードのまま豪快なシュートを放つ。

ドゴオォォーー!

唸りを上げる暴力的なシュート。

一歩も動かないエスパダス。

その脇をすり抜けた弾道はゴールポストをかすめ...、ゴールの枠外へと逸れていく。

「あーっと、これは惜しくもゴールならず。」

とアナウンサー。そして続ける。

「いや~、それにしてもコロンビア、ゴールにはならなかったもののゲームメーカーのレルマ君と切り込み隊長ジェペス君、チーム最年少の18才の2人による鮮やかな速攻でした。

メキシコ・エスパダス君、一歩も動けず、いやまたは一歩も動かずというべきか、反応できなかったのか、またはゴールを逸れるその軌跡が見えていたのか?

いずれにしてもすさまじいシュートでした!」

とアナウンサー。

その後、メキシコのゴールキックを受けて再度メキシコの太陽の五戦士が攻め上がる。

しかし、ガルシアには複数の選手がぴったりとマークに付いている。

「あーっと、コロンビア、メキシコ得意の空中戦の起点となるガルシア君をマークする事で、ルチャ殺法を封じ込める方針のようです。」

とアナウンサー。

 

それを見て取った5戦士は

「それなら!」

と普通に攻め上がる。

 

サッカーの道に残ったミッドフィルダースアレスサラゴサを中心に、息の合ったチームプレイで攻め上がるメキシコイレブン。

コロンビアはメキシコのルチャ殺法の射出点であるガルシアのマークに人数を割いている分、人数では不利である。

そんな数的優位を生かして、サイドに切れ込んだスアレスが高々とセンタリングを上げる。

そこに飛び込むのはルチャリブレの道へ進んだフォワードのロペスとアルべス。

サッカー選手としてのブランクはあるものの空中戦を特徴とするメキシカンスタイルのプロレス、ルチャリブレの世界で揉まれる2人、以前よりも体も引き締まり身体能力は格段に向上している。

高々と力強くメキシコの空に飛翔する2人のルチャ選手。

観客席から期待のどよめきがわき上がる。

 

しかし、そこに突如黒い大きな壁が立ちはだかる。

ガコォッ!

筋肉質な巨体、褐色の肌にドレッドヘアのワイルドな風貌のコロンビア選手が空中で強引にロペスとアルべスを吹っ飛ばしてボールを奪ったのである。

「なにィ!?」

と、地面に倒れ込むロペスとアルべス、そしてそれとは対照的に、しっかりと着地してゴールを背に仁王立ちでがっしりとボールをキープする巨体のワイルドなコロンビア選手。その筋肉質な太い右腕には船の碇を象ったタトゥーが彫り込まれている。

「あーっと、この競り合いを制したのはバンデラスくん。コロンビアの砦、「海賊」ラダメル・バンデラスくんだー!」とアナウンサー。

「何だ、あいつは!?」

と驚く日本イレブンに、井出がまた解説を始める。

「彼はコロンビアの副キャプテン、ラダメル・バンデラス。巨体と高い身体能力を生かしてボールを強引に略奪するプレースタイルとワイルドなその風貌から「カリブの海賊」なんて異名を持っている選手なんだな。

コロンビアの影の実力者、コロンビアではフォルテーザに次ぐNo.2の実力者なんだな。」

 

その海賊バンデラスは、悠々としたモーションでボールを前方へ大きく蹴り出す。

そのボールをフォルテーザはノートラップでレルマへ回す。

それを受けたレルマは再び小刻みなピッチのドリブルで数メートル切り込むと、素早いモーションで精妙なスルーパスを繰り出す。

 

「あーっと、でました「コロンビアン・ナイフエッジ」炸裂!コロンビアの伝家の宝刀のカウンターアタックです。味方ゴールから相手ゴールまで、その間わずか数秒!」とアナウンサー。

そして、そのボールに走り込むのはもちろんコロンビアの巨豹ジェペスである。

 

彼は再びその驚異的なスピードとパワーを生かした強烈なシュートを放つ。

「くっ!」

驚異的な反応速度で飛びつきパンチングするエスパダス。

拳の先端に当たった弾道はわずかにコースを変えてゴール脇へと逸れていく。

 

「あーっと、物凄いシュートでしたがエスパダス君、驚異的な反応速度と身体能力でこのシュートを凌ぎました。」

とアナウンサー。

 

(ふぅ~、さっきの一撃目で球筋を見てなかったら危なかったぜ。)

エスパダス。

そのエスパダスは一瞬思いを巡らすと、ジェペスに向かって

「Hey、デカブツ!そんな遠くからじゃなくてもっと近くから打ってきてもいいんだぜ。」

と言い、指をクイクイとさせてジェペスを挑発する。

 

「ヤロウ...。」とつぶやくジェペス

レルマが駆け寄り

「しょうもない挑発に乗るなよ。」

と諌めるが、ジェペスの耳には届いていないようだ。

そして(意地でもロングで決めてやるぜ。)と決意するのだった。

その後は一進一退のこう着状態が続いた。

ルチャ殺法を封じ込まれたメキシコは、それと引き換えに得た数的優位を生かして攻め込むも、フォルテーザとバンデロスを中心とするコロンビアの堅守を前に得点を奪う事ができない。

一方のコロンビアも、お家芸カウンターアタック「コロンビアン・ナイフエッジ」で何度もチャンスを作るものの、エスパダスの挑発に乗ってロングレンジからしかシュートを打たないジェペスは、エスパダスからゴールを奪えずにいた。

もともとキックの精度が決して高くはない上に、少し頭に血がのぼり冷静さを欠いているジェペスは、コントロールが安定せずゴールから逸れてしまう事も多く、ゴール枠内に行ったとしてもロングレンジからではエスパダスには通用しないのだった。

 

そんな膠着状態のまま、前半も残り時間わずか。

コロンビアは再三のカウンターアタックからチャンスを作り出し、ジェペスがロングシュートを放つが、またしてもゴール枠外へ逸れてしまう。

 

レルマはそんなジェペスを諫めて

「おい、テメー、いい加減に..」

と言いかけるが、それをフォルテーザが制して

ジェペス、ロングレンジにこだわるのも良いけど、まず1点取ってからにしたらどうだ?」

と言う。

穏やかな口調だが、そこにはどこか有無を言わせない凄味が含まれている。

それにエスパダスから2点というのはジェペスにとってはなかなか魅力的なアイディアである。

しばらく考え込んだ後、ボソッと

「了解ッス。」

と言って、新たな獲物を見つけた肉食獣のように瞳をギラリとさせるジェペスだった。

 

その後、メキシコのゴールキックで試合再開、大きく蹴り出されたボールを空中戦に強い太陽の5戦士の1人、スアレスが高々とジャンプして受けようとするが、そこに物凄い勢いで迫る黒い巨大な影。

ガコッ!

「あーっと、ジェペス君だー!ジェペス君が空中でスアレス君を吹き飛ばしてボールを奪い取りました。」

とアナウンサー。

これまであまりディフェンスには加わっていなかったジェペスだったが、フォルテーザとのやりとりで何かのスイッチが入ったようである。

そのジェペスはそのボールをレルマに渡すと、すばやく相手ゴールへ駆けだす。

レルマは、ジェペスバイタルエリアへ駆けこむまでの間、しばらくタメを作ってから、タイミングを緻密に見計らって、またしても針に糸を通すような精妙なスルーパスを放つ。

 

そして、そこに駆け込むジェペス

「まず、1点目だ!」

と鋭く右足を蹴り下ろす。

「あああ〜..」

と観客席のメキシコサポーターから悲鳴にも似たどよめきが起こる。

と、そこに低空を滑空するコンドルを思わせる白い俊敏な影がよぎる。

エスパダスである。

滑り込んだエスパダスは、蹴り出される直前のボールを、片手ですくい取ると、素早くその腕を引き、ジェペスの蹴り足をかわす。

「なにィ!?」となるコロンビアイレブン。

「おおおーーー!!}

地元のスーパーヒーローの鮮烈なプレーに湧くメキシコギャラリー。

ギリリと歯を鳴らすジェペス

「あーっと、エスパダスくん、閃光のような動きでシュート間際のジェペスくんからボールをかすめ取りましたー!」とアナウンサー。

 

そのエスパダスは、すかさずボールを前方に放るとそのままドリブルを開始する。

再び、「なにィ!?」となるコロンビアイレブン。

 

「あーっと、メキシコの白きコンドル、エスパダス君。このタイミングで仕掛けてきましたー!」

 

キーパーでありながらオーバーラップを得意とし超攻撃的キーパーと称されるエスパダス、この試合では、コロンビアのカウンターアタックを警戒して、これまでオーバーラップを見せていなかったけど、前半も残り数秒、カウンターを受けるリスクの少ないこのタイミングを狙って仕掛けてきたのである。

普段はイングランドプレミアリーグフォワードとしても活躍するエスパダス、スピーディなドリブルでコロンビア選手を数人、スピードを落とさずに一瞬にして抜き去り、前線へ瞬時にして駆けあがる

 

「ウォォォーーーー!!」

「行けー、エスパダス!」

大声援に包まれるアステカスタジアム。

 

とそこに、フォルテーザがスッと立ちはだかる。

エスパダスのこのアディショナルタイムを利用してのオーバーラップをある程度、予見・警戒していたようである。

 

「おーーっと、この位置にフォルテーザ君!メキシコ・エスパダス君とコロンビア・フォルテーザ君、前半終了間際のこのタイミングでの両チームキャプテン同士の初対決だー!」

と興奮気味のアナウンサー。

 

トップスピードで突っ込むエスパダスと待ち受けるフォルテーザ。

瞳と瞳ををかわす両雄。

エスパダスは

「フォルテーザ、オマエにはとっておきを出してやるぜ。」

と言うと、フォルテーザの向かって左から抜きにかかる。

素早く反応するフォルテーザ。しかし、ボールはエスパダスの蹴り足の方向に反して、フォルテーザの右側をすり抜ける。

左から抜くと見せかけて蹴り出したボールを意図的に自分の軸足に当ててボールの向きを変えたのである。

エスパダスの得意技トリックシュートを応用した技である。

「よしっ!」

エスパダスが思った瞬間、その視界の隅にフォルテーザのスパイクがよぎる。

 

斜め後方からの円弧のような曲線的な軌跡のスライディングタックル、「ラァルテ ディ モリール(死神の鎌)」と称されるフォルテーザの鋭利なタックルがエスパダスを襲う。

「なにィ!?」と転がり倒れ込むエスパダス。

 

「あーっと、エスパダス君のスピーディかつトリッキーなドリブル突破でしたが、これに対してフォルテーザ君の鋭いスライディングタックルが炸裂!反則スレスレのようですがこれはノーファウルのようです。

両チームのキャプテン・No.1プレーヤー同士の戦いを制したのはフォルテーザ君。

白きコンドルの羽を、黒き死神の鎌が刈り取りましたー!」とアナウンサー。

そしてさらに彼は

「メキシコ、アディショナルタイムを利用してのカウンターは未遂に終わりました。」と続ける。

 

その数秒後、ホイッスルが鳴り響き前半戦終了を告げるのだった。