中南米カップ 第25話
■フォルテーザ立つ
そんな後半7分、次にチャンスを手にしたのはコロンビアだった。
コロンビアの小さなゲームメーカー・レルマのパスを、野生の巨豹・ジェペスがミドルレンジで受ける。
ジェペスにとってこの試合2度めのミドルレンジ、今回はエスパダスも飛び出してきていない。決定的なシーンだ。
「もらったぞ、エスパダス!」
そう言うと瞳をギラリとさせ、凶暴なシュートを放つジェペス。
ガコオオオ!!
「くっ!!」
驚異的な反射速度で飛びつくエスパダス。
どうにかパンチングするが、グローブが弾き飛ばされ、ボールは緩やかにゴールへと吸い込まれてゆく。
「ああ〜。」と悲痛にどよめくメキシコサポーター。
しかし、そのボールに向かって素早く滑空するエスパダス。
そして、オーバーヘッドでこのボールを弾き返す。
「あーっと、なんとエスパダス君、ジェペス君の破壊的なシュートを弾き、さらにオーバーヘッドでクリアだー!なんという反応速度、なんという運動能力...!!」
とアナウンサー。
ボールはジェペスの顔の脇をかすめて、メキシコゴールの遠方へと飛翔してゆく。
「マジか..!?」
と唖然とするジェペス。
「ウォーー!!」と大歓喜のメキシコサポーター。
そのボールをトラップしたアステカ5戦士の一人、サラゴサも
「ハハッ、マジかよ、エスパダス...。」
とチームメイトのスーパープレーに呆れ顔だ
と、そのサラゴサに
「後ろだ、サラゴサ!」
と声がかかる。
振り返るサラゴサに静かに迫りくる死神を思わせる金色と褐色の影。
後方からのタックルで一瞬にしてボールをかすめ取るフォルテーザ。
後方からだがノーファールのようだ。
ファールすれすれのプレーを得意とするフォルテーザだが、そのプレーはふだんは決定的なシーンでしか使わず、こういった局面で使うのは珍しい。
「くっ!!」
タックルで倒された後、フォルテーザの表情を見て取ったサラゴサは
「コイツ...??」
と軽く目を見開く。
これまで、冷めた瞳でゲーム全体を俯瞰するようにプレーしていたフォルテーザの瞳の奥に熱量を思わせる何かが揺らめいている。
どうやらエスパダスのスーパープレーが、1点を先取された事でも喚起されなかったフォルテーザの危機感を誘発したようだ。
たしかに一度きりしか通用しない奇襲による1点よりも、ジェペスのミドルシュートがエスパダスに通用しないという事実の方がこの試合を左右する要因としては大きいのかもしれない。
そのフォルテーザは、一旦ボールをレルマに預けると、大きく左へ開き、再度ボールを受けるとドリブルで切り込む。
(クックッ、やっぱりお前はイイぜ、エスパダス...。)
そんな事を思いながら、フォルテーザはメキシコイレブンを一人二人と一瞬にして躱すと、矢のように鋭利なアーリークロスを繰り出す。
速く正確にメキシコゴール前へと向かうそのクロスに合わせるのは、スピードと高さのあるジェペスだ。
しかし、ここでも判断よく飛び出したエスパダスが、そのボールに向かって飛翔する。
「おーっと、これはコロンビア・ジェペス君とメキシコ・エスパダス君の空中戦だー!」
とアナウンサー。