キャプテン翼 ◎◎灼熱の中南米カップ ◎◎

日向小次郎を中心とした日本イレブンが、コロンビア・パラグアイ・チリ・ペルーなど中南米の個性豊かなチームやライバルと対戦するオリジナルストーリーです!

中南米カップ 第19話

■嵐の大地の荒くれ者

そんな後半25分、またしてもチリの中盤から前線へのパスが高々と供給される。
そして、またしてもアギラールが日本ディフェンダーを押しのけてジャンピングボレーの体勢に入る。
「いい加減に堕ちやがれ、ワカバヤシ!!」
叩きつけるように振り落とされる右足。
ゴキャッ!!
徐々に精度が上がってきているそのシュートはゴールの枠内へと吸い込まれていく。
コースも悪くない。
しかしそれでも若林はどうにか横っとび、両手でのパンチングでこの弾道をはじく。
この試合何度目かのファインセーブである。
サイドへと逸れていくボール。
しかし素早くそのボールを拾ったのはピント。
すかさず中央へセンタリングを上げる。
そして空中で競り勝ったのはまたしてもアギラール

彼は先ほどよりも更に高い位置からのハイジャンピングボレーの体勢に入る。
若林は横っとびから素早く立ちあがってはいるが、態勢はまだ整っていない。
「終わった...!?」
そんな空気が日本イレブンと日本ギャラリーに漂う。

「これでフィニッシュだ、ワカバヤシ!!」
そう言いながら振り下ろされるアギラールの豪放な右足。
と、そこに一筋の影と音声が過ぎる。
「いい加減に...」
日向である。背後から疾風のように駆け込んだ日向が飛翔し高々と右足を振り上げる。
「...しやがれ!!」
アギラールのハイジャンピングボレーにオーバーヘッドで応戦する日向。
交錯する2人の右足。
ゴキャキャッ!!
そして日向にブロックされたシュートは大きくその軌道を変えてゴールの外へ逸れてゴールラインを割っていく。
ドォ――――ーッ!!
空中でのハイレベルな攻防に湧き上がるスタジアム。
審判はコーナーアークを指し示している。コーナーキックのサインである。

 

「サンキュー、助かったぜ、日向。」
そう言ってオーバーヘッドの後、倒れ込んだ日向に手を差し伸べて引き起こす若林。

と、ボールを取りコーナーへ向かうビジャーロは、ふとゴール近辺の選手が少しざわめき立っているのに気付く。
そのざわめきの輪の中心にいるのはアギラール
先ほどの空中戦の後、仰向けに倒れ込んだまま、微動だにせず天を仰いでいる。
特に負傷等をしている様子はないようだ。

「おい、キミどうかしたのか?」
と審判が声をかけるが反応がない。

ジャーロは急いで彼に駆け寄ると
「おい、キサマ、何やってやがる?」と声をかける。
アギラールはその質問には答えず、逆に
「なぁ、さっき俺を止めやがったあの日本の9番何者だ?」
と問いかける。

どうやら、絶対的な自信を持っている空中戦でシュートをブロックされた事を基にしているようだ。
ジャーロは、やれやれというように答える。
「奴はコジロー・ヒュウガ。イタリア・セリエBのクラブの選手、2部とはいえイタリアのプロ選手だ。さっき止められた事なら気にするな。」
と淡々と言うとコーナーへ戻っていく。

そのビジャールの背後で
「クックックッ...」
と嗚咽とも笑いともとれる低く小さな声が地鳴りのように低く鳴り響く。
少しづつ大きくなるその声の主であるアギラールはノソリと立ち上がる
うつむき加減で長髪に隠れたその表情は読み取れない。
クックックッという声は断続的に続いている。
「2部..?」
「..2部の選手にこの俺が...??」
合間にそんな声も入り混じっている。
そしてその声は、徐々に二次関数的にその大きさを増し、最終的には
「クックックッ..クハッ...ハーーッハッハッハー!!」
と高らかな笑いへと変貌するのだった。

天を仰いで高笑いするアギラール
一連の異様な光景にすっかり引き気味の両イレブンとスタジアムの観客。

だが彼はそんな事にはまったくお構いなしに一人言い放つ。
「やっぱ、サッカーはおもしれーぜ!!」
そう叫ぶアギラールの表情はなぜか雲が晴れた空のようにすっきりしている。
そして、天高くを指差して、ビジャーロ
「さっきよりももっと上だ!!俺の遥か上にボールを上げろ、ジャーロ!!!」と言い放つのだった。

それを受けて、(チッ、あのバカ...)とビジャーロ
スポーツマンにあるまじき傍若無人な振る舞いはもちろんの事、あんな大きなジェスチャーでは何を要求しているのかが相手チームに丸わかりである。

一瞬思慮を巡らせた後、しかしそれでもビジャーロは、アギラールの要求通りゴール前へ高々とセンタリングを上げる。

引き気味の表情の両イレブンの中にあって、一切の迷いのないギラギラとした瞳で真っ直ぐにボールを見つめるアギラール
この場面を託せるのはヤツしかいない。

不規則な軌道を描くボールに翻弄される両イレブン。しかしそんな中でも唯一、強風吹きすさぶパタゴニアの大地で育ったアギラールだけはその軌跡の行き着く先が見えているようだ。
「さすがビジャーロちゃん、バッチリだぜ!!」
アギラールはオドけたようにそう言いながら風に煽られるボールの見えない軌道へ何の迷いもなく走り込むと、体をトルネードのようにぐるりと旋回させながら高らかに飛翔、そしてなんとその巨体には似つかわしくない豪快なオーバーヘッドの体勢に入る。
「なにぃっ、これは俺のトルネードシュートのオーバーヘッドバージョン...!??」
と、いつもは冷静なウルグアイ代表の火野が思わずベンチから立ち上がる。
「行くぜ、ワカバヤシ!これが俺にとっての母なる大地、そして嵐の大地と呼ばれるパタゴニアで編み出した最終兵器...
「...パタゴニアントルネードオーバーヘッドだーー!!」
そう叫びながら、、嵐のように体を旋回させて生み出された回転力のすべてを注ぎ込むかのように右足をハンマーのように振り下ろす。
その右足のスパイクがボールを捉えるその瞬間、
「くっ、日差しがっ...!?」
と一瞬顔をしかめる若林。
打点の高さゆえに若林のボールを追う視線と太陽の位置が交錯してしまったのだ。
ドギャゴォッ!!!
そんな事はお構いなしに繰り出される激しい嵐のようなオーバーヘッドキック。
一瞬反応が遅れながらも懸命に飛びつく若林。
しかし、ゴール前の地面に激しく叩きつけられたボールは無情にも激しくバウンドしてゴールを割りゴールの天面に高々と突き刺さるのだった
「決まったーー、ゴォォーーーーーーーール!!!!アギラール君の嵐のようなオーバーヘッドキック!!!風と太陽を味方に付けたかのような豪快なシュートが、ついに若林君の鉄壁の牙城を突き崩しましたーーー!!」
と絶叫するアナウンサー。
唖然とする日本イレブンと狂乱乱舞するチリイレブン。
アギラールとビジャールが、バチィン!とハイタッチし、ピントが2人にじゃれつくように飛びかかる。
その他のチリイレブン、普段はアギラールの事をあまり快く思っていないメンバーもこの時ばかりはアギラールの元に集まって称賛と祝福の言葉を贈っている