キャプテン翼 ◎◎灼熱の中南米カップ ◎◎

日向小次郎を中心とした日本イレブンが、コロンビア・パラグアイ・チリ・ペルーなど中南米の個性豊かなチームやライバルと対戦するオリジナルストーリーです!

灼熱の中南米カップ - 目次 -

 

第1話 太陽の国の日向

第2話 蠍(サソリ)と死神の呪縛

第3話 "左の死神" ハメス・フォルテーザ

第4話 上陸!メキシコシティ

第5話 波乱の開幕フェス!(1)

第6話 波乱の開幕フェス!(2)

第7話 夕闇の邂逅(1)

第8話 夕闇の邂逅(2)

第9話 開幕戦!チリ vs 日本

第10話 ファーストインパクト

第11話 中盤のコンキスタドール

第12話 反撃へのムチャぶり!?

第13話 堕ちたエース

第14話 格好悪くても...

第15話 最後の1ピース

第16話 パタゴニアの暴れん坊

第17話 チリの復権

第18話 名君&暴君

第19話 嵐の大地の荒くれ者

第20話 "SGGK"の由縁

第21話 アディショナルタイムの攻防

第22話 躍動する列強プレーヤー

第23話 開戦!メキシコVSコロンビア

第24話 メキシコの奇襲

第25話 フォルテーザ立つ 

【PS4】キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS

 

(続く)

中南米カップ 第25話

■フォルテーザ立つ

 

そんな後半7分、次にチャンスを手にしたのはコロンビアだった。

コロンビアの小さなゲームメーカー・レルマのパスを、野生の巨豹・ジェペスがミドルレンジで受ける。

ジェペスにとってこの試合2度めのミドルレンジ、今回はエスパダスも飛び出してきていない。決定的なシーンだ。

「もらったぞ、エスパダス!」

そう言うと瞳をギラリとさせ、凶暴なシュートを放つジェペス

ガコオオオ!!

「くっ!!」

驚異的な反射速度で飛びつくエスパダス。

どうにかパンチングするが、グローブが弾き飛ばされ、ボールは緩やかにゴールへと吸い込まれてゆく。

「ああ〜。」と悲痛にどよめくメキシコサポーター。

しかし、そのボールに向かって素早く滑空するエスパダス。

そして、オーバーヘッドでこのボールを弾き返す。

「あーっと、なんとエスパダス君、ジェペス君の破壊的なシュートを弾き、さらにオーバーヘッドでクリアだー!なんという反応速度、なんという運動能力...!!」

とアナウンサー。

ボールはジェペスの顔の脇をかすめて、メキシコゴールの遠方へと飛翔してゆく。

「マジか..!?」

と唖然とするジェペス

「ウォーー!!」と大歓喜のメキシコサポーター。

 

 

 

そのボールをトラップしたアステカ5戦士の一人、サラゴサ

「ハハッ、マジかよ、エスパダス...。」

とチームメイトのスーパープレーに呆れ顔だ

 

と、そのサラゴサ

「後ろだ、サラゴサ!」

と声がかかる。

振り返るサラゴサに静かに迫りくる死神を思わせる金色と褐色の影。

後方からのタックルで一瞬にしてボールをかすめ取るフォルテーザ。

後方からだがノーファールのようだ。

ファールすれすれのプレーを得意とするフォルテーザだが、そのプレーはふだんは決定的なシーンでしか使わず、こういった局面で使うのは珍しい。

「くっ!!」

タックルで倒された後、フォルテーザの表情を見て取ったサラゴサ

「コイツ...??」

と軽く目を見開く。

これまで、冷めた瞳でゲーム全体を俯瞰するようにプレーしていたフォルテーザの瞳の奥に熱量を思わせる何かが揺らめいている。

どうやらエスパダスのスーパープレーが、1点を先取された事でも喚起されなかったフォルテーザの危機感を誘発したようだ。

たしかに一度きりしか通用しない奇襲による1点よりも、ジェペスミドルシュートエスパダスに通用しないという事実の方がこの試合を左右する要因としては大きいのかもしれない。

 

そのフォルテーザは、一旦ボールをレルマに預けると、大きく左へ開き、再度ボールを受けるとドリブルで切り込む。

 

(クックッ、やっぱりお前はイイぜ、エスパダス...。)

そんな事を思いながら、フォルテーザはメキシコイレブンを一人二人と一瞬にして躱すと、矢のように鋭利なアーリークロスを繰り出す。

 

速く正確にメキシコゴール前へと向かうそのクロスに合わせるのは、スピードと高さのあるジェペスだ。

しかし、ここでも判断よく飛び出したエスパダスが、そのボールに向かって飛翔する。

「おーっと、これはコロンビア・ジェペス君とメキシコ・エスパダス君の空中戦だー!」

とアナウンサー。

 

 

 

 

中南米カップ 第24話

■メキシコの奇襲

 

ピィィーーーー!

「さあ、いよいよメキシコvsコロンビア、後半戦開始です。」

とアナウンサー。

そして続ける。

「おーっと、メキシコは布陣を変えてきました。ミッドフィルダーのガルシア君がディフェンダーでしょうか。かなり低い位置まで下がっています。」

と言っている間に、メキシコボールで始まったボールは、バックパスを重ねて、そのガルシアの前へと転がされる。

 

そして、そのボールに向かって勢いよく走り込んだガルシアは、その巨体と丸太のような右足でボールを大きく高々と前方へと蹴り出す。

 

「ああーっと、これはまさかー...!?」とアナウンサー。

コロンビアのゴール手前まで到達しようといているボールに向かって、メキシコのアステカ太陽の5戦士がルチャ殺法で高々と飛翔する。

アルベスをスアレスが、サラゴサがロペスを上方へ投げ上げ、さらに空中でアルべスがロペスをそのまた上方へと投げ上げる。

 

「あーっと、これはメキシコ、ガルシア君の超特大フィードからのルチャ殺法だー!

メキシコの青い空に高々とアステカ太陽の5戦士が飛翔します!」

2段階のプロセスで仲間に投げ上げられ数メートルの高さまで舞い上がったロペスは

最高地点に達すると叩きつけるようなジャンピングボレーを放つ。

 

「決まったー、ゴール!後半開始わずか数分、ここメキシコの空にアステカ太陽の五戦士のルチャ殺法が炸裂しましたー。」

とアナウンサー。

歓喜に包まれる観客席。

 

 

前半戦では、ジェペスにロングシュートに固執させるエスパダスの奇策が功を奏し、後半戦開始直後には、アステカ5戦士の奇襲が功を奏したメキシコイレブンは大歓喜である。

リスタートのために急ぐジェペスは思わず、センターサークルへ向かう途中で

「どきやがれ。」

とメキシコイレブンの一人を小突く。

「貴様!」

とカッとなるその選手を、アステカ5戦士の一人スアレスが制して、からかうように言う。

「よせよせ、俺達の奇策と奇襲がことごとくハマって苛立ってんだろ。可哀想だからそっとしといてやれよ。」

それを聞いてカッとなったジェペス

「テメー!」

とツカツカと歩み寄る。

が、それをフォルテーザが制して

ジェペス、いちいち格下の言う事なんか気にするな。さっさとリスタートするぞ。」

と言う。

「俺達が格下だと..!?」

と問いただすスアレスにフォルテーザは、当然だろ、とでも言うかのように

「ああ、奇襲や奇策っていうのは正攻法じゃ敵わない格下が仕掛けるものだからな。」

と軽く言い放つと、ジェペスをセンターサークルへと向かわせ、自分も持ち場へと戻る。

 

 

ピィィーーーー!

そして、試合再開。

フォルテーザの一言で落ち着きを取り戻したコロンビアイレブンは着々とメキシコゴールへとボールを進める。

確かに先程のようなアステカ5戦士の奇襲が通用するのは一度きりだし、ジェペスもロングレンジに固執しなければエスパダスからゴールを奪える可能性は高い。

1点のビハインドがあるとはいえ、地力で勝るコロンビアの方が優位かもしれない。

そんな空気感の支配するコロンビアイレブンは、1点のビハインドがあるとは思えない落ち着きのある試合運びを進めるのだった。

tonsuke1010.hatenablog.com

 

 

 








中南米カップ 第23話

■開戦!メキシコvsコロンビア

 

まもなくメキシコvsコロンビアの試合を迎えようとしているメキシコ・アステカスタジアム。

両チームの選手は、すでにそれぞれのベンチ近辺に集まり軽いアップを始めている。

開催国でもあり、サッカー熱も高いメキシコ、そして代表チームには、スター性抜群のミラクルキーパー・エスパダスに加えて、アステカ太陽の5戦士といった話題性の高いメンバーが肩を揃えている。

スタジアムの観客席はそんなメキシコのサポーターと彼らの派手で陽気な声援で埋め尽くされていた。

一方のコロンビアイレブンも自チームのベンチ近辺でアップを始めている。

ふだんは強気のコロンビアのフォワード・ジェペスもさすがに珍しく浮かない表情でつぶやく。

「チッ、これだけアウェイムード満載だとさすがに萎えるぜ。」

他のイレブンもそれに同調し、浮かないムードがチームを包み込んでいる。

と、そこにベンチの奥の少し暗がりになった位置から

「そうか?」

と静かだが鋭くよく通る声が届く。

 

日陰に身をひそめ獲物をつけ狙う獣のようなしなやかな肢体、頭に軽くかぶったダークトーンのパーカーの隙間からのぞく金色の長髪と鋭く光る左の眼光。

コロンビア・キャプテンのハメス・フォルテーザである。

彼はつぶやく。

「オレは試合が終わる頃のコイツらの顔を想像するとゾクゾクしてくるけどな。」

試合にコロンビアが勝利しメキシコサポーターが落胆する様子の事を指しているようだ。

 

それを聞いたジェペスは呆れたように

「ドSっすね。」

と返すが、しばらく考え込んだ後、気を取り直したように

「まっ、オレもッスけどね!」

と、開いた左掌に握った右拳をバチィン!と合わせて言い放つのだった。

メキシコの強い太陽の光の下、力強くそう言い放つジェペスの表情には、さっきまでの浮かない表情はすっかりと消え失せていた。

 

 

そして数分後、

ピィィーーーーーー!

高らかにホイッスルが鳴り響き渡り、

「さあ、いよいよ予選屈指の好カード、メキシコvsコロンビア、事実上の決勝戦では?という声もあるビッグマッチ、いよいよ試合開始です!」

とアナウンサーが告げる。

 

そして試合開始数分後、先手を取ったのは、メキシコだった。

前線にアステカ太陽の5戦士と呼ばれるタレントを揃えるメキシコが、息のとれたパス回しでコロンビア陣内へ攻め込む。

この5人の選手の内の3人は、先のワールドユース選手権の後に一旦はルチャ・リブレというメキシコのプロレスに専念するためにサッカーからの引退を表明していたが、この大会に関しては復帰を決意しトレーニングを重ねてきたのだった。

「あーっと、アステカ太陽の5戦士、ブランクを感じさせない動きでコロンビア陣内へ攻め込みます。」

とアナウンサー。

サッカーのブランクはあるものの、空中殺法や軽快で機敏な動きが特徴のメキシカンプロレス、ルチャ・リブレの世界で揉まれる3人の選手、逞しさと体のキレは以前よりも増しているようだ。

 

その内の1人、巨漢のミッドフィルダー・ガルシアにボールが渡ると、一際大きな声援が上がる。

「あーーっと、これは出るか~?太陽の5戦士のルチャ殺法!」

とアナウンサー。

このメキシコ・キック力No.1のガルシアが空中高くに上げたボールを、残りの戦士がアクロバティックな空中技でゴールを決めるのがメキシコの必勝の得点パターンなのである。

 

しかし、ガルシアが大きくボールを蹴り出そうとした瞬間、小さな影がよぎり、スッと気配を感じさせない動きで素早く静かにボールをかすめ取る。

「あーっと、コロンビアのミッドフィルダー・レルマ君、巧みにボールをかすめ取りました。」

とアナウンサー。

小柄な体にライオンのたてがみのような特徴的なカーリーヘア、開幕フェスでのジェペスの騒動の時に弓倉のスマホの視界を抜け目なく遮った選手である。

 

そのレルマと呼ばれた選手は、そのまま小刻みなピッチと少し変則的なリズムのドリブルを開始しメキシコ選手を翻弄する。

 

「なんだ、アイツは?」

と驚く観戦中の日本イレブンに、井出が解説を始める。

「アイツはミゲル・レルマ、年齢は翼さん達より2つ下の18才ながらコロンビアの司令塔に抜擢されたサッカーセンス抜群の選手なんだな。

派手な髪型に似合わず、周囲を生かしたりフォローしたりなんかの細やかな気配りや小細工が得意なバランサータイプの選手、コロンビア往年の名選手バルデラマを敬愛し、その髪型とプレースタイルを真似ている事から"バルデラマJr"なんで呼ばれているんだな。」

そのレルマは、密集する相手選手のチャージを巧みにかわしながら、選手と選手の隙間から糸を通すような細密なパスを通す。

 

そしてそこに勢いよく走り込むのは南米の巨豹ダミアン・ジェペス

190cm級の巨体、サッカー歴は浅く荒削りながらも、立花兄弟を片手で持ち上げるパワーとビクトリーノにも匹敵するスピードを併せ持つ、高さ・強さ・速さを兼ね揃えた大器である。

 

彼は、「行くぜ、エスパダス!」

と言うとトップスピードのまま豪快なシュートを放つ。

ドゴオォォーー!

唸りを上げる暴力的なシュート。

一歩も動かないエスパダス。

その脇をすり抜けた弾道はゴールポストをかすめ...、ゴールの枠外へと逸れていく。

「あーっと、これは惜しくもゴールならず。」

とアナウンサー。そして続ける。

「いや~、それにしてもコロンビア、ゴールにはならなかったもののゲームメーカーのレルマ君と切り込み隊長ジェペス君、チーム最年少の18才の2人による鮮やかな速攻でした。

メキシコ・エスパダス君、一歩も動けず、いやまたは一歩も動かずというべきか、反応できなかったのか、またはゴールを逸れるその軌跡が見えていたのか?

いずれにしてもすさまじいシュートでした!」

とアナウンサー。

その後、メキシコのゴールキックを受けて再度メキシコの太陽の五戦士が攻め上がる。

しかし、ガルシアには複数の選手がぴったりとマークに付いている。

「あーっと、コロンビア、メキシコ得意の空中戦の起点となるガルシア君をマークする事で、ルチャ殺法を封じ込める方針のようです。」

とアナウンサー。

 

それを見て取った5戦士は

「それなら!」

と普通に攻め上がる。

 

サッカーの道に残ったミッドフィルダースアレスサラゴサを中心に、息の合ったチームプレイで攻め上がるメキシコイレブン。

コロンビアはメキシコのルチャ殺法の射出点であるガルシアのマークに人数を割いている分、人数では不利である。

そんな数的優位を生かして、サイドに切れ込んだスアレスが高々とセンタリングを上げる。

そこに飛び込むのはルチャリブレの道へ進んだフォワードのロペスとアルべス。

サッカー選手としてのブランクはあるものの空中戦を特徴とするメキシカンスタイルのプロレス、ルチャリブレの世界で揉まれる2人、以前よりも体も引き締まり身体能力は格段に向上している。

高々と力強くメキシコの空に飛翔する2人のルチャ選手。

観客席から期待のどよめきがわき上がる。

 

しかし、そこに突如黒い大きな壁が立ちはだかる。

ガコォッ!

筋肉質な巨体、褐色の肌にドレッドヘアのワイルドな風貌のコロンビア選手が空中で強引にロペスとアルべスを吹っ飛ばしてボールを奪ったのである。

「なにィ!?」

と、地面に倒れ込むロペスとアルべス、そしてそれとは対照的に、しっかりと着地してゴールを背に仁王立ちでがっしりとボールをキープする巨体のワイルドなコロンビア選手。その筋肉質な太い右腕には船の碇を象ったタトゥーが彫り込まれている。

「あーっと、この競り合いを制したのはバンデラスくん。コロンビアの砦、「海賊」ラダメル・バンデラスくんだー!」とアナウンサー。

「何だ、あいつは!?」

と驚く日本イレブンに、井出がまた解説を始める。

「彼はコロンビアの副キャプテン、ラダメル・バンデラス。巨体と高い身体能力を生かしてボールを強引に略奪するプレースタイルとワイルドなその風貌から「カリブの海賊」なんて異名を持っている選手なんだな。

コロンビアの影の実力者、コロンビアではフォルテーザに次ぐNo.2の実力者なんだな。」

 

その海賊バンデラスは、悠々としたモーションでボールを前方へ大きく蹴り出す。

そのボールをフォルテーザはノートラップでレルマへ回す。

それを受けたレルマは再び小刻みなピッチのドリブルで数メートル切り込むと、素早いモーションで精妙なスルーパスを繰り出す。

 

「あーっと、でました「コロンビアン・ナイフエッジ」炸裂!コロンビアの伝家の宝刀のカウンターアタックです。味方ゴールから相手ゴールまで、その間わずか数秒!」とアナウンサー。

そして、そのボールに走り込むのはもちろんコロンビアの巨豹ジェペスである。

 

彼は再びその驚異的なスピードとパワーを生かした強烈なシュートを放つ。

「くっ!」

驚異的な反応速度で飛びつきパンチングするエスパダス。

拳の先端に当たった弾道はわずかにコースを変えてゴール脇へと逸れていく。

 

「あーっと、物凄いシュートでしたがエスパダス君、驚異的な反応速度と身体能力でこのシュートを凌ぎました。」

とアナウンサー。

 

(ふぅ~、さっきの一撃目で球筋を見てなかったら危なかったぜ。)

エスパダス。

そのエスパダスは一瞬思いを巡らすと、ジェペスに向かって

「Hey、デカブツ!そんな遠くからじゃなくてもっと近くから打ってきてもいいんだぜ。」

と言い、指をクイクイとさせてジェペスを挑発する。

 

「ヤロウ...。」とつぶやくジェペス

レルマが駆け寄り

「しょうもない挑発に乗るなよ。」

と諌めるが、ジェペスの耳には届いていないようだ。

そして(意地でもロングで決めてやるぜ。)と決意するのだった。

その後は一進一退のこう着状態が続いた。

ルチャ殺法を封じ込まれたメキシコは、それと引き換えに得た数的優位を生かして攻め込むも、フォルテーザとバンデロスを中心とするコロンビアの堅守を前に得点を奪う事ができない。

一方のコロンビアも、お家芸カウンターアタック「コロンビアン・ナイフエッジ」で何度もチャンスを作るものの、エスパダスの挑発に乗ってロングレンジからしかシュートを打たないジェペスは、エスパダスからゴールを奪えずにいた。

もともとキックの精度が決して高くはない上に、少し頭に血がのぼり冷静さを欠いているジェペスは、コントロールが安定せずゴールから逸れてしまう事も多く、ゴール枠内に行ったとしてもロングレンジからではエスパダスには通用しないのだった。

 

そんな膠着状態のまま、前半も残り時間わずか。

コロンビアは再三のカウンターアタックからチャンスを作り出し、ジェペスがロングシュートを放つが、またしてもゴール枠外へ逸れてしまう。

 

レルマはそんなジェペスを諫めて

「おい、テメー、いい加減に..」

と言いかけるが、それをフォルテーザが制して

ジェペス、ロングレンジにこだわるのも良いけど、まず1点取ってからにしたらどうだ?」

と言う。

穏やかな口調だが、そこにはどこか有無を言わせない凄味が含まれている。

それにエスパダスから2点というのはジェペスにとってはなかなか魅力的なアイディアである。

しばらく考え込んだ後、ボソッと

「了解ッス。」

と言って、新たな獲物を見つけた肉食獣のように瞳をギラリとさせるジェペスだった。

 

その後、メキシコのゴールキックで試合再開、大きく蹴り出されたボールを空中戦に強い太陽の5戦士の1人、スアレスが高々とジャンプして受けようとするが、そこに物凄い勢いで迫る黒い巨大な影。

ガコッ!

「あーっと、ジェペス君だー!ジェペス君が空中でスアレス君を吹き飛ばしてボールを奪い取りました。」

とアナウンサー。

これまであまりディフェンスには加わっていなかったジェペスだったが、フォルテーザとのやりとりで何かのスイッチが入ったようである。

そのジェペスはそのボールをレルマに渡すと、すばやく相手ゴールへ駆けだす。

レルマは、ジェペスバイタルエリアへ駆けこむまでの間、しばらくタメを作ってから、タイミングを緻密に見計らって、またしても針に糸を通すような精妙なスルーパスを放つ。

 

そして、そこに駆け込むジェペス

「まず、1点目だ!」

と鋭く右足を蹴り下ろす。

「あああ〜..」

と観客席のメキシコサポーターから悲鳴にも似たどよめきが起こる。

と、そこに低空を滑空するコンドルを思わせる白い俊敏な影がよぎる。

エスパダスである。

滑り込んだエスパダスは、蹴り出される直前のボールを、片手ですくい取ると、素早くその腕を引き、ジェペスの蹴り足をかわす。

「なにィ!?」となるコロンビアイレブン。

「おおおーーー!!}

地元のスーパーヒーローの鮮烈なプレーに湧くメキシコギャラリー。

ギリリと歯を鳴らすジェペス

「あーっと、エスパダスくん、閃光のような動きでシュート間際のジェペスくんからボールをかすめ取りましたー!」とアナウンサー。

 

そのエスパダスは、すかさずボールを前方に放るとそのままドリブルを開始する。

再び、「なにィ!?」となるコロンビアイレブン。

 

「あーっと、メキシコの白きコンドル、エスパダス君。このタイミングで仕掛けてきましたー!」

 

キーパーでありながらオーバーラップを得意とし超攻撃的キーパーと称されるエスパダス、この試合では、コロンビアのカウンターアタックを警戒して、これまでオーバーラップを見せていなかったけど、前半も残り数秒、カウンターを受けるリスクの少ないこのタイミングを狙って仕掛けてきたのである。

普段はイングランドプレミアリーグフォワードとしても活躍するエスパダス、スピーディなドリブルでコロンビア選手を数人、スピードを落とさずに一瞬にして抜き去り、前線へ瞬時にして駆けあがる

 

「ウォォォーーーー!!」

「行けー、エスパダス!」

大声援に包まれるアステカスタジアム。

 

とそこに、フォルテーザがスッと立ちはだかる。

エスパダスのこのアディショナルタイムを利用してのオーバーラップをある程度、予見・警戒していたようである。

 

「おーーっと、この位置にフォルテーザ君!メキシコ・エスパダス君とコロンビア・フォルテーザ君、前半終了間際のこのタイミングでの両チームキャプテン同士の初対決だー!」

と興奮気味のアナウンサー。

 

トップスピードで突っ込むエスパダスと待ち受けるフォルテーザ。

瞳と瞳ををかわす両雄。

エスパダスは

「フォルテーザ、オマエにはとっておきを出してやるぜ。」

と言うと、フォルテーザの向かって左から抜きにかかる。

素早く反応するフォルテーザ。しかし、ボールはエスパダスの蹴り足の方向に反して、フォルテーザの右側をすり抜ける。

左から抜くと見せかけて蹴り出したボールを意図的に自分の軸足に当ててボールの向きを変えたのである。

エスパダスの得意技トリックシュートを応用した技である。

「よしっ!」

エスパダスが思った瞬間、その視界の隅にフォルテーザのスパイクがよぎる。

 

斜め後方からの円弧のような曲線的な軌跡のスライディングタックル、「ラァルテ ディ モリール(死神の鎌)」と称されるフォルテーザの鋭利なタックルがエスパダスを襲う。

「なにィ!?」と転がり倒れ込むエスパダス。

 

「あーっと、エスパダス君のスピーディかつトリッキーなドリブル突破でしたが、これに対してフォルテーザ君の鋭いスライディングタックルが炸裂!反則スレスレのようですがこれはノーファウルのようです。

両チームのキャプテン・No.1プレーヤー同士の戦いを制したのはフォルテーザ君。

白きコンドルの羽を、黒き死神の鎌が刈り取りましたー!」とアナウンサー。

そしてさらに彼は

「メキシコ、アディショナルタイムを利用してのカウンターは未遂に終わりました。」と続ける。

 

その数秒後、ホイッスルが鳴り響き前半戦終了を告げるのだった。

 

 

中南米カップ 第22話

■ 躍動する列強プレーヤー

「ヒャッホーーーー!!」

疾風のようなドリブルでフィールドを駆け抜ける野生の獣のような黒い影。
続く第2試合、ウルグアイvsグアマテラで躍動する南米の黒豹ラモン・ビクトリーノである。
彼はその異次元のスピードで相手ディフェンダーを一人二人と抜き去り、
一気に相手ゴール前まで迫るとトップスピードのままシュートを放つ。
スバァーッ!!
「決まったー、ゴーーーーール!!ビクトリーノ君、これで今日3点目、ハットトリック達成です!
ビクトリーノ君、持前のスピードに加えて足もとの技術もかなり高くなっているようです。」
とアナウンサー。

そして数分後、試合終了のホイッスルが高らかに響き渡る。
「あーーっと、ここで試合終了です。試合結果は4-0、ウルグアイ完勝です。
ビクトリーノ君がハットトリック、火野君が1ゴール2アシスト、「世界最強ツートップ」と呼ばれる2人が
その名に恥じない圧倒的な強さを見せつけましたー!」
とアナウンサー。

続く第3試合では韓国の2人の選手がメキシコシティ国際空港での宣言通り大暴れをしていた。
剛の虎・車がダンプカーのようなドリブルで相手ディフェンダーをなぎ倒し豪快なシュートを決めるとそれに対抗するかのように、今度は、柔の虎・李が俊敏でしなやかなタッチのドリブルで相手ディフェンダーを抜きさり、回転をかけたテクニカルなシュートを決める。
車が豪快なポストプレーから叩きつけるようなヘディングを繰り出し、それに素早く飛びついた李が針に糸を通すような精度の高いボレーシュートを決めると、今度はそれに呼応するように、李が精緻なアーリークロスを放ち、車がそのボールを豪快なダイビングヘッドでゴールにねじ込む、といった具合だ。

「あーっと、これは韓国、剛の虎・車君と柔の虎・李君、2頭の虎がここメキシコの大地で大暴れだー!!」

そして試合終了のホイッスルが鳴るとアナウンサーは告げる。
「試合終了!!韓国6-0と爆発的な強さを見せつけましたーー!
「アジア最強ツートップ」と名高い車君と李君の2人、2頭の虎がそれぞれハットトリック、ダブルハットトリック達成です!」

その2頭の虎と呼ばれた2人の選手は、観客席のウルグアイイレブンの火野とビクトリーノをじっと見据えて心に誓う。
「「世界最強ツートップ」の称号、この大会で俺達がお前らから奪い取ってやるぜ!」

その一方、メキシコシティの別会場ではペルーの試合が行われていた。

後半35分、ペルーイレブンの中の一際派手な風貌の選手にボールが向けられると、一際大きな声援とこんな声が上がる。
「またやるのか...?」
「また出るぞ、ピエロタ・タイム!」

その選手、”フィールドの舞台俳優”の異名を持つピエロタは、ボールを受けると
「イッツ ア ショ~タ~イム♪♪」
と、おどけた表情で言うと、特に相手ゴールへ攻め込む様子もなく
その場でポンポンと相手イレブンを挑発するかのようにリフティングを始める。

「このヤロウッ!」
そのピエロタに相手選手が、2人3人と集まってきて激しいチャージを仕掛けるが
ピエロタは蝶のようなヒラヒラした動きでこれをかわし、その場でボールをキープを続ける。

「あーっと、またしても始まりました、フィールドの舞台俳優・ピエロタ君の独演、ピエロタ・タイムだー!」
とアナウンサー。
この試合でこれまでにも何度も見られた光景である。

ピエロタは、相手陣内の切り込むわけでもパスを出すでもなく、その場に滞留しヒラリヒラリとマークする相手を翻弄し続けている
ピエロタにとっては得点や試合の勝敗よりも、自分のプレーで観客を魅了する事の方が重要なようである。

と、そこに黒い長身の選手が走り込んできて
「おい、ピエロタいい加減にしろ!」
とパスを要求する。

ピエロタが
「へェ~、クルスちゃんも意外と目立ちたがり屋なんだネ~♪」
と言ってパスを渡すと、その選手はドリブルで相手陣内へ切り込む。

「あーっと、ペルー第2のテクニシャン、黒ヘビ・クルス君、ヌルヌルとしたスネーキーなドリブルで相手陣内へ侵入します。」
とアナウンサー。
南米は、ボールタッチのピッチが細かく足元にボールが吸いつくようなドリブルを得意とする選手が多いが、その中でもこの選手のドリブルは格別である。
クルスは、そのヌルヌルしたドリブルで相手ディフェンダーの一人二人とスルスル抜き去ると、やや遠い位置からシュートを放つ。
クネリと変化し曲線を描くそのシュートは、ブロックする相手ディフェンダーとキーパーの脇をすり抜けて、ゴールへと吸い込まれるのだった。

そして、そのまま1-0で試合終了。
ペルーはふざけ気味のピエロタを擁しながらも勝利をものにしたのだった。

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そして、続く試合では南米若手No1ディフェンシブハーフと名高いディエゴ・ダルバロス率いるパラグアイが、絶対的な守備力と安定感を誇示していた。
試合が終了すると、アナウンサーが
「あーっと、ここで試合終了です。パラグアイ世界最高峰の守備力」という称号どおりの高い守備力と手堅い試合運びで確実に勝利を手にしました。」

舞台は戻ってアステカスタジアム。
ここで第1ラウンド最終戦予選屈指の好カードを言われるメキシコvsコロンビアの試合が行われようとしていた。

 

 

 

中南米カップ 第21話

アディショナルタイムの攻防

そんな後半戦もスコア1対1のまま後半戦は45分を経過、あとはアディショナルタイムを残すのみとなっていた。
残り時間ごくわずかでの中盤でのゾーンプレス合戦、この極限の状況の中で力を示したのはやはりこの男、中盤のコンキスタドール、チリの支柱アンヘル・ビジャーロだった。
90分近く走り続けているにも関わらず翳りを見せない運動量と持前の鋼の肉体による激しいタックルでボールを奪うと、そのまま強引なドリブルでダンプカーのように突き進む。

「あーっと、ここに来て「アンデスの鉄人」ビジャーロ君、その本領を発揮、一騎当千の大進撃です!。」とアナウンサー。
と、そこに俊足の岡野が疾風のようなスライディングタックルを喰らわせる。
しかしビジャーロは右足で万力のようにボールをがっちりの大地に踏みつけてボールをキープする。中学校時代に次藤が対南葛戦で見せつけていた技である。
「あーっと、これはビジャーロ君の十八番、アイアン・バインディングだー。」
とアナウンサー。

ここ中南米ではそんな技名で呼ばれているようだ。

鋼鉄のような強度で右足と大地に固定されているボールを前に、スライディングタックルに行った岡野は逆にふっとばされてしまい、右足を押さえてもんどりを打っている。

ジャーロは、ボールをキープしたまま、しばらくタメを作ってチリフォーワード陣が上がるのを待ってからおもむろに前方に縦パスを繰り出す。

そしてそのパスを受けるのはアギラール
またしても圧倒的な空中での競り合いの強さで、日本選手をなぎ倒し、トラップしてボールを浮かせるとジャンピングボレーの体勢に入る。
が、
「そう、何度もやらせるかよー!」
と、ここ一番の場面で時に意外な強さを発揮する石崎が顔面ブロックの体勢に入る。

しかしアギラールはシュートモーションをピタリと止めるとそのまま着地、
そして慣れないフェイントで石崎をかわすと再びシュートモーションに入る。
「なにィ!?」
となる両イレブンとギャラリー。

チリベンチでは控えの選手が監督に問いかける。
「アイツって普通のシュート打てるんですか?」
チームメイトですら、アギラールがボレー以外のシュートを打つのを見たことのある選手はほとんどいないようだ。
その問いにエスパージョは答える。
「当たり前だ。いくらアイツが規格外の怪人と言っても、空中でのシュートよりも、大地にしっかりと足を付けて打つ通常のシュートの方が強い。
その破壊力はおそらくワカバヤシの好敵手シュナイダーのファイヤーショット以上...。」」
そして
「豪放で派手好きだから普段は豪快なジャンピングボレーしか打たないがな..。」
とやれやれというように言い添える。

そのアギラールはギラギラした瞳をさらにギン!とさせて
「この俺がここまでゴールを渇望した事はないぜ、ワカバヤシ!これが俺が信念(スタイル)を曲げてまで放つファイナルブロー...」
「...パタゴニアシュートだーー!!」
と言って大地にしっかりと軸足を据えて暴力的な右足をボールに振り下ろす。
ゴオオオオーーーー
嵐の大地パタゴニアで育まれた強靭な肉体による破壊的なシュートが若林ゴールを襲う。

「若林っ!!」と日本イレブン。
瞳をキラリとさせて対応、横っとびする若林。
バチィィン!!
「あーっと、若林くん、止めたー!!アギラール君の強烈なシュートをしっかりと両手でファインセーブだー!!」

「そ、そんな、何で..??」と立ち尽くすアギラール

(ふぅッ、なんてシュートだ。けど、威力はともかく、シュートのキレとコースの厳しさならファイヤーショットの方が上だぜ。)
とつぶやく若林だった。

ドイツでのシュナイダーとの研鑽の日々がこのファインセーブを可能にしたのかもしれない。

そして
「そんな...、さっきのオーバーヘッドよりも更に強力だったのに、なんで...。」
と納得いかない様子のピントに石崎が言い放つ。
「へっへっへ、質実剛健でパワフルなブンデスリーガで馴らしたクソ真面目な正統派・堅物キーパー若林。変則的なシュートにはちょっぴり弱いけど、正攻法の真っ向勝負のシュートにはめっぽう強いのさ!」

「石崎のヤロウ..」
色々とツッコミたい事のある若林だったが、後半戦も残り数秒、そして決定的な場面を逃して一瞬チリの陣形に隙が生じたこの一瞬を逃すわけにはいかない。
「..後でシめる!」
と言いながら前方へ蹴り出す体勢に入る。

決定的な場面の直後に両イレブンに訪れた一瞬の空白の時間、そこからいち早く気持ちを切り替えて動き出した選手は、日向と弓倉、そして日向の動きに呼応して動き出した沢田だ。

その内の弓倉へ、若林は強くて精度の高いパスを送る。
その弓倉はワンタッチでボールを沢田へはたく。
そして沢田は前方の日向へ送ろうとするが..。

そこにはビジャーロ
ジャーロが陸上の短距離選手のようなフォームとスピードで一直線に日向に追いすがっている。
「くっ、最後はやっぱりコイツかよ。」と日向。

日向とビジャーロ、現時点では間違いなくビジャーロの方が格上である。
それでも
(ここ一番のシーンでの1on1、この局面なら日向さんは誰にも負けない!)
と迷わず沢田は日向へパスを送る。

(タケシの野郎、あいかわらず無茶ぶりしやがる。)
そう言いながらもどこか嬉しそうにボールを追う日向。

激しく体と体をぶつからせながら落下地点へ向かう2人。

 

たとえ技術や経験で劣っていようと
「パワーと...」
気合なら誰にも負けねー!。
そう言いかけた日向の声にビジャーロの声が被さる。
「パワーと気合なら誰にも負けん!!」
そしてさっきまでよりも更に激しく体をぶつからせる。
一瞬よろめく日向、自らのストロングポイントであるはずのパワーと気合ですら遅れを取ってしまった事で、体だけでなく心と自信まで揺らいでしまう。
(だめなのか...?)という空気が日本イレブンに漂う。
が、その瞬間日向の脳裏には吉良監督との特訓の日々のある記憶がよぎっていた。

・・・・・・
日の傾きかけたグラウンド、夕陽を背景にして長く伸びる二つの影。
「いいか、小次郎。お前の強みは何といってもその強靭な肉体と不屈の精神力。しかしそれだけに頼ってはいかん。相手と自分を比較し自分が少しでも勝っている点を見つけ出しそれを最大限に生かして戦うのじゃ。喧嘩というのはそんな風にやるもんじゃ。」
そう言う吉良監督と
(あれっ、オレが今教わってるのってサッカーだよな...)
そんな事を感じる日向。
・・・・・・

日向は、思わずフッと軽く笑みを浮かべると
「少しでも...」
「ほんの少しでも俺が勝っている点...」
「それを少しづつでも積み重ねれば..!!」
ジャーロにやや遅れをとりながらもボールへ向かってジャンプする日向。
ファウルすれすれに体を寄せる。
わずかに競り勝ったのは日向、遠方へボールをはたく。
高さとファウルぎりぎりのラインを見定めるセンスではやや日向が勝っている。
そして、遠方へはたかれたボールを追う2人。
一瞬のスピードでもわずかに勝る日向が先に追い付きシュート体勢に入る。

しかしビジャーロも追い付き、タックルを仕掛けながら、かつシュートコースをふさぐ位置に体を寄せに来る。
体勢を崩される日向。しかし、その刹那、その眼光に閃光が走る。
倒されかけて傾きを増してゆく視界には、スローモーションのように緩やかに落下するボールと迫りくるビジャーロ、その隙間にチラチラと見え隠れするゴールとキーパー。そんな光景を背景に、脳裏に幾筋ものシュートコースの射線の候補が閃き、それがやがて一筋の射線へと収束する。
「ここだ!」
鋭く振りぬかれたそのシュートは、針に糸を通すように、ブロックするビジャーロを体のわずかな間隙とゴールポストとキーパーのわずがな隙間をぬうようにゴールへと吸い込まれた。

「あーっと、日本だー!日向君試合終了間際、混戦を制し何とかゴールをこじ開けましたーー!!」
とアナウンサー。
どよめく観客。
「何かわかんないけど無理やり強引に決めやがったー!!」
そんな声も上がっているようだ。
日向なりに色々な判断のもとに放ったシュートだったのだが、はたから見るとそうは見えなかったようだ。

観客席のコロンピアイレブンのジェペス
「う~ん、今のはラッキーゴールなんすかねー。」
と冷めた表情、他のコロンビアイレブンもそれに同調している様子だ。しかし、ただ一人フォルテーザだけは珍しく深刻な表情で何かを考え込んでいる様子である。

歓喜に沸く日本イレブン。しかし、そんな中にあって、ただ一人日向だけは
「今の..今の感覚は..?」
と一人茫然と立ち尽くしていた。

それを眺める日本ベンチの三杉と観客席の松本香は背筋がゾクリとするのを感じていた。
「パワーを気合いで押し切るスタイルだった彼の中に、何かこれまでにない野性的な感覚が目覚めようとしているのかもしれない..。」

そんな思いが脳裏をよぎる三杉だった。

ピィィィーーーーーーーー!!
そして試合終了のホイッスルが鳴り響く。

こうして中南米カップ、予選第一回戦、チリvs日本の試合は2対1で日本の勝利という結果で幕を閉じたのである。

ダークホースのチリと南米では無名の日本の思わぬハイレベルの激戦に興奮冷めやらぬスタジアム。
しかしこの試合のインパクトは続く二試合でかき消されてしまうのであった。

 

 

中南米カップ 第20話

■"SGGK"の由縁

その後、チリの攻勢はさらにその激しさを増していた。フルスロットルのはずのゾーンプレスは後半戦も30分以上経過しているにもかかわらず、さらにその激しさを増している。
一方の日本はさすがに疲れの色が見え始めている。
ゾーンプレスは仕掛ける方も苦しいが、仕掛けられる方も苦しいのだ。
「くそっ、コイツらのスタミナ、どうなってやがる...。」
どちらも苦しいとはいえ、走っている量は仕掛けているチリの方が遥かに多いはずだ。
にも拘らず、消耗が激しく疲弊しているのは明らかに日本の方だった。
能動的に"走る立場"と受動的・強制的に"走らされる立場"、そんな立場の違いもこの消耗度の違いに一抹の影響を与えているのかもしれない。

それに日本は、イレブンが絶対的な信頼を寄せていた若林がゴールを許してしまっている。
浮足立つ日本と勢いづくチリ。

必然的な流れ、とでも言うかのようにまたしてもチリにチャンスが訪れる。
司令塔ビジャーロのスルーパスを右サイドにスッと切り込んだピントが受け、素早く高いセンタリングを上げる。
そしてそこに走り込むのはもちろんチリ前線の暴れん坊アギラールだ。

速く高く、風に煽られるボール、しかしアギラールはそれに臆する事もなく、またしても旋回しながらジャンプ、そして今度はハイジャンピングボレーの体勢に入る。
しかし、その視界に入るのは、この難しいボールに対応しているもう一つの影...。
バキィィーッ!!
「あーーっと、これは若林君だっ!!若林君がアギラール君のトルネードハイジャンピングボレーを両手でがっちりと空中でブロック!!」
両手でしっかりとボールを掴み、アギラールのキックをブロックする若林。空中で吹き飛ばされそうになりながらもどうにか体勢を整えて持ちこたえて、しっかりとグランドに着地する。
「ワカバヤシィ...。」
ギリリと歯を鳴らすアギラール

観客席で松本香がつぶやく。
「さすがね、若林君。得点を許した後というキーパーにとっては精神的にもっとも苦しい時間帯の1つ。
若林君のように失点する経験が少なくプライドの高いキーパーならなおさらの事...。
そんな状況でこのファインセーブ...。」

その若林はイレブンに
「みんな、もっと前に出ろ!!気持ちが守りに入ったら負けるぞ、もっとラインを上げろ!」
とゲキを飛ばす。
「でもよ~。」と石崎。
(攻め込まれてこれ以上失点したらどうするんだよ~。)と言いたそうな顔の石崎に
「ゴールなら俺が死守する。」
ギン!と強い瞳で言い放つその雄姿には、言葉では形容しがたい絶対的な信頼感とプレゼンスが立ち顕われていた。

日本ベンチにはそんな若林を一人特別な思いで眺める選手がいた。
同じ修哲小出身の井沢である。

彼は小学生時代の修哲小vs南葛小、翼と若林が初めて対決した記念すべき試合の事を思い出していた。
この時の若林は試合終了直前に翼に得点を許してしまった後、精神的なダメージと自己中心的な判断から試合をボイコットして帰ってしまおうとしていたのである。
そんな若林が同じような状況でファインプレーを見せただけでなく、試合の流れを変えるような存在感を示している。

(あの勝負の後の数十年の間で若林さんが最も成長したのは技術でもフィジカルでもなく、「心」かもしれない。)
そんな事を思う井沢だった。

そんな若林のファインプレーとゲキによって、試合の流れは明らかに変わっていた。


中盤戦、特に試合終盤の中盤戦では絶対的な強さを誇るチリを相手にラインを上げた日本は互角に近い攻防を繰り広げていた。
調子に乗る石崎は
「よし!このままこっちもゾーンプレスを仕掛けるぞ!」
といってディフェンダーにもかかわらずハーフラインを超える位置まで上がってプレスを仕掛ける。
さっきの弱気な顔が嘘のようだ。
「はぁ~?」
となる日本イレブンだが
「よし!乗ったタイ!!」
と言ってこの試合、ディフェンスリーダーを務める次藤もこれに呼応する。
「チッ、仕方ねー。」
松山も中盤の選手に指示を出してこれに呼応する。
「あーっと、これはなんと日本もゾーンプレスを仕掛けてきました。ゾーンプレスvsゾーンプレス中盤にほとんどの選手が集まっての大混戦です!」
とアナウンサー。

日本は急造のゾーンプレスながらも個々の能力を生かしどうにかチリに食い下がっていた。

意表をつかれて一時浮き出し立つチリを相手に、得点には至らないもののオーバーラップした次籐が豪快なロングシュートを放ったり、サイドに切れ込んだ早田が決定的なカミソリパスを出したりなど得点をイメージさせるプレーもたびたび見られるようになってきている。
そして、急造ゆえに出来てしまった穴の部分は、器用でバランサータイプの沢田とそして松山が気合いで何とかカバーしていた。
そして、何といってもディフェンスラインを抜けられてしまった場合にも、若林が高い信頼性と安定感を感じさせるセービングでゴールを死守していた。

日本のこのハイリスクハイリターンの戦略?を成立させているのは間違いなく若林のプレゼンスだった。

 

中南米カップ 第19話

■嵐の大地の荒くれ者

そんな後半25分、またしてもチリの中盤から前線へのパスが高々と供給される。
そして、またしてもアギラールが日本ディフェンダーを押しのけてジャンピングボレーの体勢に入る。
「いい加減に堕ちやがれ、ワカバヤシ!!」
叩きつけるように振り落とされる右足。
ゴキャッ!!
徐々に精度が上がってきているそのシュートはゴールの枠内へと吸い込まれていく。
コースも悪くない。
しかしそれでも若林はどうにか横っとび、両手でのパンチングでこの弾道をはじく。
この試合何度目かのファインセーブである。
サイドへと逸れていくボール。
しかし素早くそのボールを拾ったのはピント。
すかさず中央へセンタリングを上げる。
そして空中で競り勝ったのはまたしてもアギラール

彼は先ほどよりも更に高い位置からのハイジャンピングボレーの体勢に入る。
若林は横っとびから素早く立ちあがってはいるが、態勢はまだ整っていない。
「終わった...!?」
そんな空気が日本イレブンと日本ギャラリーに漂う。

「これでフィニッシュだ、ワカバヤシ!!」
そう言いながら振り下ろされるアギラールの豪放な右足。
と、そこに一筋の影と音声が過ぎる。
「いい加減に...」
日向である。背後から疾風のように駆け込んだ日向が飛翔し高々と右足を振り上げる。
「...しやがれ!!」
アギラールのハイジャンピングボレーにオーバーヘッドで応戦する日向。
交錯する2人の右足。
ゴキャキャッ!!
そして日向にブロックされたシュートは大きくその軌道を変えてゴールの外へ逸れてゴールラインを割っていく。
ドォ――――ーッ!!
空中でのハイレベルな攻防に湧き上がるスタジアム。
審判はコーナーアークを指し示している。コーナーキックのサインである。

 

「サンキュー、助かったぜ、日向。」
そう言ってオーバーヘッドの後、倒れ込んだ日向に手を差し伸べて引き起こす若林。

と、ボールを取りコーナーへ向かうビジャーロは、ふとゴール近辺の選手が少しざわめき立っているのに気付く。
そのざわめきの輪の中心にいるのはアギラール
先ほどの空中戦の後、仰向けに倒れ込んだまま、微動だにせず天を仰いでいる。
特に負傷等をしている様子はないようだ。

「おい、キミどうかしたのか?」
と審判が声をかけるが反応がない。

ジャーロは急いで彼に駆け寄ると
「おい、キサマ、何やってやがる?」と声をかける。
アギラールはその質問には答えず、逆に
「なぁ、さっき俺を止めやがったあの日本の9番何者だ?」
と問いかける。

どうやら、絶対的な自信を持っている空中戦でシュートをブロックされた事を基にしているようだ。
ジャーロは、やれやれというように答える。
「奴はコジロー・ヒュウガ。イタリア・セリエBのクラブの選手、2部とはいえイタリアのプロ選手だ。さっき止められた事なら気にするな。」
と淡々と言うとコーナーへ戻っていく。

そのビジャールの背後で
「クックックッ...」
と嗚咽とも笑いともとれる低く小さな声が地鳴りのように低く鳴り響く。
少しづつ大きくなるその声の主であるアギラールはノソリと立ち上がる
うつむき加減で長髪に隠れたその表情は読み取れない。
クックックッという声は断続的に続いている。
「2部..?」
「..2部の選手にこの俺が...??」
合間にそんな声も入り混じっている。
そしてその声は、徐々に二次関数的にその大きさを増し、最終的には
「クックックッ..クハッ...ハーーッハッハッハー!!」
と高らかな笑いへと変貌するのだった。

天を仰いで高笑いするアギラール
一連の異様な光景にすっかり引き気味の両イレブンとスタジアムの観客。

だが彼はそんな事にはまったくお構いなしに一人言い放つ。
「やっぱ、サッカーはおもしれーぜ!!」
そう叫ぶアギラールの表情はなぜか雲が晴れた空のようにすっきりしている。
そして、天高くを指差して、ビジャーロ
「さっきよりももっと上だ!!俺の遥か上にボールを上げろ、ジャーロ!!!」と言い放つのだった。

それを受けて、(チッ、あのバカ...)とビジャーロ
スポーツマンにあるまじき傍若無人な振る舞いはもちろんの事、あんな大きなジェスチャーでは何を要求しているのかが相手チームに丸わかりである。

一瞬思慮を巡らせた後、しかしそれでもビジャーロは、アギラールの要求通りゴール前へ高々とセンタリングを上げる。

引き気味の表情の両イレブンの中にあって、一切の迷いのないギラギラとした瞳で真っ直ぐにボールを見つめるアギラール
この場面を託せるのはヤツしかいない。

不規則な軌道を描くボールに翻弄される両イレブン。しかしそんな中でも唯一、強風吹きすさぶパタゴニアの大地で育ったアギラールだけはその軌跡の行き着く先が見えているようだ。
「さすがビジャーロちゃん、バッチリだぜ!!」
アギラールはオドけたようにそう言いながら風に煽られるボールの見えない軌道へ何の迷いもなく走り込むと、体をトルネードのようにぐるりと旋回させながら高らかに飛翔、そしてなんとその巨体には似つかわしくない豪快なオーバーヘッドの体勢に入る。
「なにぃっ、これは俺のトルネードシュートのオーバーヘッドバージョン...!??」
と、いつもは冷静なウルグアイ代表の火野が思わずベンチから立ち上がる。
「行くぜ、ワカバヤシ!これが俺にとっての母なる大地、そして嵐の大地と呼ばれるパタゴニアで編み出した最終兵器...
「...パタゴニアントルネードオーバーヘッドだーー!!」
そう叫びながら、、嵐のように体を旋回させて生み出された回転力のすべてを注ぎ込むかのように右足をハンマーのように振り下ろす。
その右足のスパイクがボールを捉えるその瞬間、
「くっ、日差しがっ...!?」
と一瞬顔をしかめる若林。
打点の高さゆえに若林のボールを追う視線と太陽の位置が交錯してしまったのだ。
ドギャゴォッ!!!
そんな事はお構いなしに繰り出される激しい嵐のようなオーバーヘッドキック。
一瞬反応が遅れながらも懸命に飛びつく若林。
しかし、ゴール前の地面に激しく叩きつけられたボールは無情にも激しくバウンドしてゴールを割りゴールの天面に高々と突き刺さるのだった
「決まったーー、ゴォォーーーーーーーール!!!!アギラール君の嵐のようなオーバーヘッドキック!!!風と太陽を味方に付けたかのような豪快なシュートが、ついに若林君の鉄壁の牙城を突き崩しましたーーー!!」
と絶叫するアナウンサー。
唖然とする日本イレブンと狂乱乱舞するチリイレブン。
アギラールとビジャールが、バチィン!とハイタッチし、ピントが2人にじゃれつくように飛びかかる。
その他のチリイレブン、普段はアギラールの事をあまり快く思っていないメンバーもこの時ばかりはアギラールの元に集まって称賛と祝福の言葉を贈っている