キャプテン翼 ◎◎灼熱の中南米カップ ◎◎

日向小次郎を中心とした日本イレブンが、コロンビア・パラグアイ・チリ・ペルーなど中南米の個性豊かなチームやライバルと対戦するオリジナルストーリーです!

中南米カップ 第21話

アディショナルタイムの攻防

そんな後半戦もスコア1対1のまま後半戦は45分を経過、あとはアディショナルタイムを残すのみとなっていた。
残り時間ごくわずかでの中盤でのゾーンプレス合戦、この極限の状況の中で力を示したのはやはりこの男、中盤のコンキスタドール、チリの支柱アンヘル・ビジャーロだった。
90分近く走り続けているにも関わらず翳りを見せない運動量と持前の鋼の肉体による激しいタックルでボールを奪うと、そのまま強引なドリブルでダンプカーのように突き進む。

「あーっと、ここに来て「アンデスの鉄人」ビジャーロ君、その本領を発揮、一騎当千の大進撃です!。」とアナウンサー。
と、そこに俊足の岡野が疾風のようなスライディングタックルを喰らわせる。
しかしビジャーロは右足で万力のようにボールをがっちりの大地に踏みつけてボールをキープする。中学校時代に次藤が対南葛戦で見せつけていた技である。
「あーっと、これはビジャーロ君の十八番、アイアン・バインディングだー。」
とアナウンサー。

ここ中南米ではそんな技名で呼ばれているようだ。

鋼鉄のような強度で右足と大地に固定されているボールを前に、スライディングタックルに行った岡野は逆にふっとばされてしまい、右足を押さえてもんどりを打っている。

ジャーロは、ボールをキープしたまま、しばらくタメを作ってチリフォーワード陣が上がるのを待ってからおもむろに前方に縦パスを繰り出す。

そしてそのパスを受けるのはアギラール
またしても圧倒的な空中での競り合いの強さで、日本選手をなぎ倒し、トラップしてボールを浮かせるとジャンピングボレーの体勢に入る。
が、
「そう、何度もやらせるかよー!」
と、ここ一番の場面で時に意外な強さを発揮する石崎が顔面ブロックの体勢に入る。

しかしアギラールはシュートモーションをピタリと止めるとそのまま着地、
そして慣れないフェイントで石崎をかわすと再びシュートモーションに入る。
「なにィ!?」
となる両イレブンとギャラリー。

チリベンチでは控えの選手が監督に問いかける。
「アイツって普通のシュート打てるんですか?」
チームメイトですら、アギラールがボレー以外のシュートを打つのを見たことのある選手はほとんどいないようだ。
その問いにエスパージョは答える。
「当たり前だ。いくらアイツが規格外の怪人と言っても、空中でのシュートよりも、大地にしっかりと足を付けて打つ通常のシュートの方が強い。
その破壊力はおそらくワカバヤシの好敵手シュナイダーのファイヤーショット以上...。」」
そして
「豪放で派手好きだから普段は豪快なジャンピングボレーしか打たないがな..。」
とやれやれというように言い添える。

そのアギラールはギラギラした瞳をさらにギン!とさせて
「この俺がここまでゴールを渇望した事はないぜ、ワカバヤシ!これが俺が信念(スタイル)を曲げてまで放つファイナルブロー...」
「...パタゴニアシュートだーー!!」
と言って大地にしっかりと軸足を据えて暴力的な右足をボールに振り下ろす。
ゴオオオオーーーー
嵐の大地パタゴニアで育まれた強靭な肉体による破壊的なシュートが若林ゴールを襲う。

「若林っ!!」と日本イレブン。
瞳をキラリとさせて対応、横っとびする若林。
バチィィン!!
「あーっと、若林くん、止めたー!!アギラール君の強烈なシュートをしっかりと両手でファインセーブだー!!」

「そ、そんな、何で..??」と立ち尽くすアギラール

(ふぅッ、なんてシュートだ。けど、威力はともかく、シュートのキレとコースの厳しさならファイヤーショットの方が上だぜ。)
とつぶやく若林だった。

ドイツでのシュナイダーとの研鑽の日々がこのファインセーブを可能にしたのかもしれない。

そして
「そんな...、さっきのオーバーヘッドよりも更に強力だったのに、なんで...。」
と納得いかない様子のピントに石崎が言い放つ。
「へっへっへ、質実剛健でパワフルなブンデスリーガで馴らしたクソ真面目な正統派・堅物キーパー若林。変則的なシュートにはちょっぴり弱いけど、正攻法の真っ向勝負のシュートにはめっぽう強いのさ!」

「石崎のヤロウ..」
色々とツッコミたい事のある若林だったが、後半戦も残り数秒、そして決定的な場面を逃して一瞬チリの陣形に隙が生じたこの一瞬を逃すわけにはいかない。
「..後でシめる!」
と言いながら前方へ蹴り出す体勢に入る。

決定的な場面の直後に両イレブンに訪れた一瞬の空白の時間、そこからいち早く気持ちを切り替えて動き出した選手は、日向と弓倉、そして日向の動きに呼応して動き出した沢田だ。

その内の弓倉へ、若林は強くて精度の高いパスを送る。
その弓倉はワンタッチでボールを沢田へはたく。
そして沢田は前方の日向へ送ろうとするが..。

そこにはビジャーロ
ジャーロが陸上の短距離選手のようなフォームとスピードで一直線に日向に追いすがっている。
「くっ、最後はやっぱりコイツかよ。」と日向。

日向とビジャーロ、現時点では間違いなくビジャーロの方が格上である。
それでも
(ここ一番のシーンでの1on1、この局面なら日向さんは誰にも負けない!)
と迷わず沢田は日向へパスを送る。

(タケシの野郎、あいかわらず無茶ぶりしやがる。)
そう言いながらもどこか嬉しそうにボールを追う日向。

激しく体と体をぶつからせながら落下地点へ向かう2人。

 

たとえ技術や経験で劣っていようと
「パワーと...」
気合なら誰にも負けねー!。
そう言いかけた日向の声にビジャーロの声が被さる。
「パワーと気合なら誰にも負けん!!」
そしてさっきまでよりも更に激しく体をぶつからせる。
一瞬よろめく日向、自らのストロングポイントであるはずのパワーと気合ですら遅れを取ってしまった事で、体だけでなく心と自信まで揺らいでしまう。
(だめなのか...?)という空気が日本イレブンに漂う。
が、その瞬間日向の脳裏には吉良監督との特訓の日々のある記憶がよぎっていた。

・・・・・・
日の傾きかけたグラウンド、夕陽を背景にして長く伸びる二つの影。
「いいか、小次郎。お前の強みは何といってもその強靭な肉体と不屈の精神力。しかしそれだけに頼ってはいかん。相手と自分を比較し自分が少しでも勝っている点を見つけ出しそれを最大限に生かして戦うのじゃ。喧嘩というのはそんな風にやるもんじゃ。」
そう言う吉良監督と
(あれっ、オレが今教わってるのってサッカーだよな...)
そんな事を感じる日向。
・・・・・・

日向は、思わずフッと軽く笑みを浮かべると
「少しでも...」
「ほんの少しでも俺が勝っている点...」
「それを少しづつでも積み重ねれば..!!」
ジャーロにやや遅れをとりながらもボールへ向かってジャンプする日向。
ファウルすれすれに体を寄せる。
わずかに競り勝ったのは日向、遠方へボールをはたく。
高さとファウルぎりぎりのラインを見定めるセンスではやや日向が勝っている。
そして、遠方へはたかれたボールを追う2人。
一瞬のスピードでもわずかに勝る日向が先に追い付きシュート体勢に入る。

しかしビジャーロも追い付き、タックルを仕掛けながら、かつシュートコースをふさぐ位置に体を寄せに来る。
体勢を崩される日向。しかし、その刹那、その眼光に閃光が走る。
倒されかけて傾きを増してゆく視界には、スローモーションのように緩やかに落下するボールと迫りくるビジャーロ、その隙間にチラチラと見え隠れするゴールとキーパー。そんな光景を背景に、脳裏に幾筋ものシュートコースの射線の候補が閃き、それがやがて一筋の射線へと収束する。
「ここだ!」
鋭く振りぬかれたそのシュートは、針に糸を通すように、ブロックするビジャーロを体のわずかな間隙とゴールポストとキーパーのわずがな隙間をぬうようにゴールへと吸い込まれた。

「あーっと、日本だー!日向君試合終了間際、混戦を制し何とかゴールをこじ開けましたーー!!」
とアナウンサー。
どよめく観客。
「何かわかんないけど無理やり強引に決めやがったー!!」
そんな声も上がっているようだ。
日向なりに色々な判断のもとに放ったシュートだったのだが、はたから見るとそうは見えなかったようだ。

観客席のコロンピアイレブンのジェペス
「う~ん、今のはラッキーゴールなんすかねー。」
と冷めた表情、他のコロンビアイレブンもそれに同調している様子だ。しかし、ただ一人フォルテーザだけは珍しく深刻な表情で何かを考え込んでいる様子である。

歓喜に沸く日本イレブン。しかし、そんな中にあって、ただ一人日向だけは
「今の..今の感覚は..?」
と一人茫然と立ち尽くしていた。

それを眺める日本ベンチの三杉と観客席の松本香は背筋がゾクリとするのを感じていた。
「パワーを気合いで押し切るスタイルだった彼の中に、何かこれまでにない野性的な感覚が目覚めようとしているのかもしれない..。」

そんな思いが脳裏をよぎる三杉だった。

ピィィィーーーーーーーー!!
そして試合終了のホイッスルが鳴り響く。

こうして中南米カップ、予選第一回戦、チリvs日本の試合は2対1で日本の勝利という結果で幕を閉じたのである。

ダークホースのチリと南米では無名の日本の思わぬハイレベルの激戦に興奮冷めやらぬスタジアム。
しかしこの試合のインパクトは続く二試合でかき消されてしまうのであった。