中南米カップ 第14話
■格好悪くても...
体の痛みのせいか屈辱のせいかなかなか立ち上がれない弓倉に松山
「大丈夫ですか?」
と手を差し伸べる。
弓倉は起き上がりながら「サンキュー、松山。」
と言った後に
「この試合、
とつぶやく。
そんな弓倉に、いつの間にか駆け寄っていた日向が
「キャプテンだからって格好つけてんじゃねーぜ。監督が弓倉さんをキャプテン、そしてトップ下にしたのには何か理由があるはずだ。」
と言い放つ。
「なにぃ!?」
となる弓倉に対して、松山があわてて
「まぁまぁ、
とフォローして持ち場に戻る。
その後も不調の弓倉を擁しながらも互角に近い中盤戦を繰り広げる
中盤でボールを奪っても、その後の攻撃のビジョンやゴールへのイメージの
それに加えてスタミナに勝るチリが徐々に再びその攻勢を強めてい
「弓倉さん、ほぼ棒立ちじゃねーか。」
日本ベンチで再び心配の声が上がり始めている。
ゲームにほとんど参加せずにヨロヨロ動く弓倉を
「オラッ、邪魔だぜ!」
とガッティが通り過ぎざまに肩で小突くがまったく抗う様子もない
そんな弱々しい挙動を横目で捉えながらも
「こいつ...!?」
ブツブツと夢遊病者のように
「オレにできる事、オレにしかできない事...。」
とつぶやく弓倉の瞳はまだ死んでいないからだった。
そんな前半30分、少しずつ日本のボール保有率が少なくなる中、
突如弓倉が
「くれっ、松山!」
とパスを要求する。
迷わず放り込まれたパスを受けると弓倉は
トラップからの2タッチ目で前方へスルーパスを送る。
通常スルーパスを繰り出す場合、トラップからパスまでの流れは3タッチまたはそれ以上のタッ
1タッチ目でトラップ、
2タッチでのパスは、
スルーパスなど高度な状況判断とパスの精度が要求されるパスなら
案の定、
「ああ~...」
一瞬弓倉の復調を期待した日本イレブンとベンチにがっかり感が漂
しかし、
松山や葵が粘り強く奪ったボールを弓倉がほんの数タッチ・
ボールを受けるサイドの岡野やフォワード陣も何度も走らされる。
この光景は決して見栄えの良い光景ではなかった。
観客からも野次やブーイングが起き始めている。
弓倉をマークするガッティも
「情けない奴だな。
と侮蔑するが、弓倉は一向に意に介する様子はない。
「悪いな松山、それにみんな。ここは甘えさせてもらうぞ。
心の中でそう呟く弓倉の瞳にはもう何の迷いの色も見出すことはで