中南米カップ 第8話
■ 夕闇の邂逅(2) ■
メキシコ代表キャプテン・エスパダス、パラグアイ代表キャプテン・ダルバロス、2人のビッグネームに差し挟まれる形になったジェペス。
しかも2人はそれぞれ強力な代表メンバーを引連れている。
さすがに多少気圧されてはいるが、怒りは収まっていないようだ。
そしてその怒りの矛先は、後から突如現れて会場の空気をすべて味方に付けてしまったエスパダスへと向けられている。
と、そこにジェペスの肩に手を置いて
「この辺にしておけ。」
と言ってスッと前面に出る一つの黒い影。
金色のラフな長髪、引き締まったしなやかな褐色の肢体。そして左腕にはサソリのタトゥー。
「ハ、ハメス...フォルテーザ...!」
"左の死神"と恐れられるコロンビア代表キャプテン、ダークヒーローの登場にギャラリーから低いどよめきが起こる。。
地元のスーパーヒーロー、エスパダスの登場時の熱狂とは対照的な冷気を帯びた不穏なざわめきが会場に伝播してゆく。
メキシコのエスパダス、パラグアイのダルバロス、それにコロンビアのフォルテーザ、図らずも今大会のビッグネームが並び立つ事となり、独特のピリピリとした緊張感、そして一瞬の静寂が会場に漂う。
「Hey、エスパダス。」
そのピリつく空気と一瞬の静寂を切り裂いたのはフォルテーザである。
「この大会、俺達コロンビアの初戦の相手はお前らメキシコ、仲良くヤろーぜ♪」
と言いながら1枚の用紙をエスパダスの方へパチンとはじいて渡す。
今大会の対戦表である。すでに会場のどこかで発表されているようだ。
「!!」とメキシコのアステカ5戦士。
「ヒュウッ♪」と口を鳴らすコロンビアのジェペス。
そして「うおー、マジかー!!」と一気に盛り上がるギャラリー。
空気が変わりジェペスの暴挙からギャラリーの関心が逸れた事を見て取るとフォルテーザは、行くぜ、というように首をくいと動かして、コロンビアイレブンを促し、その場を立ち去るのだった。
その傍ら、死角になる位置のサボテンの木の陰。
「チェッ、ざ~んねん。せっかく面白くなりそうだったのに~。」
隠れてドリンクを飲みながら一部始終を高みの見物していた一つの影が呟く。
このトラブルを仕組んだ張本人ペルーの"イケメン俳優"ピエロタだ。
残り少なくなったドリンクをだらしなくチューチューさせていた彼だったが、不意に冷たく鋭い視線に気づく。
視線の元に目をやると、フォルテーザが立ち去り際にピエロタの方を一瞥している。
すべてを見透かすような怜悧な眼光。口元はわずかにニヤリと緩んでいる。
「お~コワいコワい♪」
おどけたように一人つぶやくピエロタだったが、そのこめかみには一筋の冷たい汗が滴り落ちていた。