中南米カップ 第3話
■「左の死神」ハメス フォルテーザ ■
「フォルテーザって日向さんを負傷させた選手ですよね。」
とタケシ。
「そう、ハメス・フォルテーザ、南米のコロンビア出身、鋭く激しいディフェンスと勝負の勘所を押さえた的確なオーバーラップを得意とする攻撃型の左サイドバック。
日向君や翼君と同世代、知名度こそまだまだだけど確実に世界のトップクラスに上り詰める選手ね。」
と松本。
タケシはスマートフォンで彼の動画をチェックしながら言う。
「実力も凄いですけど、何ていうか、どこか危険な香りのする選手ですね。」
褐色のしなやかな獣のような肢体、金髪のラフな長髪、そして左腕にはサソリのタトゥーが彫りこまれている。
「ええ、彼はコロンビアの首都ハバナの最も危険なエリア出身、幼少期からストリートギャングとして犯罪に手を染めていたとか地元マフィアとの関連性が噂されているわ。
その真偽は定かではないけど、どこか死と隣合わせの日常を経験してきた者にしか持ちえないような研ぎ澄まされた勝負勘・勝負強さを持っているのは事実。
そして、そこから付いた呼び名は『左の死神』。」
「ゴクリ...。」とするタケシ。
「だけどコイツって確か…。」
香が続ける。
「そう、彼は今節からリーガエスパニョーラのアトレティコ・マドリーに移籍しているわ。」
リーガエスパニョーラはスペインのトッププロリーグ、そしてアトレティコ・マドリーはそのスペインでFCバルセロナ・レアルマドリードに次ぐビッグクラブだ。
「つまりイタリア・セリエB所属の日向さんとの対戦の機会はもう当面はない…。」
しょんぼりするタケシ。
「だけど一つだけ彼と対戦する方法があるわ。それは1ヶ月後に開催される中南米カップ。この大会に彼はコロンビア代表として出場する。
そして、この大会では特別枠として中南米以外のエリアの国の参加も募集しているの。
おそらく今なら日本サッカー協会に掛け合えば日本も参加できる可能性は高いわ。」
「日向さんっ!」とキラキラした目で日向の方を振り向くタケシ。
やりましょう!という響きが言外に思いっきり含まれている。
「ただし…」と言い添える香。
「もしもフォルテーザとの再戦で日向くんが敗けるような事があれば、おそらく日向くんのイップスは永久に治らない。あるいはもっとひどい事になる。私にはそんな気がするわ。」
それは日向も同様に直感していた事だった。
だがまったく躊躇わずに日向は
「頼む、香さん!日本がその大会に出場できるように手配してくれ。」
と、珍しく深々と頭を下げるのだった。