キャプテン翼 ◎◎灼熱の中南米カップ ◎◎

日向小次郎を中心とした日本イレブンが、コロンビア・パラグアイ・チリ・ペルーなど中南米の個性豊かなチームやライバルと対戦するオリジナルストーリーです!

中南米カップ 第18話

■名君&暴君

 

前半終了直前に1点を奪い流れに乗るかと思われた日本だったが、後半投入の暴れん坊アギラールのファーストプレーとその存在感は試合の流れをチリへと引き戻すのに十分なものだった。

中盤では、アギラールの加入によって中盤に専念する事が出来るようになった鉄人ビジャーロがその支配力を取り戻していた。
前半に1点を奪う契機になった弓倉のワンステップスルーパスも、前半よりも少しポジションを下げたビジャールによって完全に封じ込まれている。

そんな後半5分、ビジャーロはボールを持つと、すかさず高いロングの縦パスを前線へと放り込む。

どちらかというと着実にゲームを組み立てていくタイプの司令塔であるビジャーロにはあまり似つかわしくないプレー、そして前半戦ではあまり見られなかったプレーだ。

そのボールに向かって飛翔し
「ううぉーー!!」
と日本ディフェンス陣を押しのけてボールに迫るのはアギラール

どうやらアギラールの空中での競り合いの強さを見越しての高い縦パスのようである。

 

アギラールは肩でそのパスをトラップしてボールを軽く浮かせると再び豪快なジャンピングボレーを繰り出す。
ドゴォーーッ!!
このシュートはキーパーのほぼ真正面、若林の顔面近くを襲うボールを若林は両手でパンチングして防ぐ。
「どけー!!」

高々とゴール前に舞い上がったそのボールに、相手ディフェンダーだけでなく、味方のチリイレブンすらも押しのけて走り込むアギラール
「ワシが止めるタイ!!」
パワーと体躯では負けていない次藤が空中で競り合う。...が...。
「あーっと、巨漢2人のパワー対決を制したのはアギラール君!!」
とアナウンサー。
どうやらパワーでは拮抗しているものの跳躍力と空中でのボディバランスと闘争能力で勝っているアギラールに、空中での競り合いでは分があったようだ。
「空中での競り合いなら誰にも負けねー!!」
アギラールはそう叫びながら叩きつけるようにボールをゴールへ向かってヘッディングする。
ドギャッ!!
が、そのシュートはわずかにゴールの枠外へと逸れていく。
「た、助かったのか...!?」
とホッとする日本イレブン。
「あーっと、これは何ともはや..!!暴君アギラール君の一人舞台!!やや独り相撲とも言えるような暴れっぷりです!」
とアナウンサーは興奮気味である。

その後も同様の展開が続いた。
中盤で、ビジャーロが主導するプルスロットルのゾーンプレスでボールを奪取すると、すぐさま前線へと高いボールを放り込む。
そして前線では、空中戦で圧倒的・暴力的な強さを誇るアギラールが大暴れする。

「あーっと、ダークホース・チリ、ついにその真価を発揮し始めました。中盤では名君ビジャーロ君がその支配力を発揮し、前線では暴君アギラール君が大暴れしています!!」
とアナウンサー。
「つ、強い...。」となる日本イレブン。

 

中南米カップ 第17話

■チリの復権

ピイィィィ――――――――――――!!
「さぁー、いよいよチリvs日本、後半戦が始まりました。」
とアナウンサー。

彼は更に続ける。
「チリは選手交代があったようです。
FW xxx君に代わって、FWアレハンドラ・アギラール君、背番号99。
身長194cm、体重99kg、まるでプロレスラーのような体型、なかなかの迫力の選手です。
手元の資料によるとチリのクラブチームを転々としている選手のようです。公式戦の出場記録が少なく情報が少ないのですが、嵐の大地とも呼ばれる南米南部パタゴニアの僻地出身、その野性的なプレースタイルから、一部では「パタゴニアの荒くれ者」「荒野の暴れん坊」などと恐れられているようです。やや問題児のような側面もある選手のようですが、はたしてどんなプレーを見せてくれるのでしょうか!?」

 

 


そんな後半5分、はじめにチャンスを手にしたのはチリだった。
トップ下のビジャーロが松山の激しいタックルを持前のフィジカルで耐えながら出したスルーパスを右サイドに走り込んだピントが受ける。
ジャーロ→ピントのライン、チリの必勝パターンの1つである。

そのパスをすかさず高々とセンタリングするピント。

そのボールを目で追いながら
「クックックッ、暴れてこいアギラール。」
瞳をギラリとさせて不敵につぶやくエスタージョ監督。

そのアギラールは、センタリングをクリアしようとジャンプした石崎と早田を
「どけっ、チビども!!」
とジャンプして空中で軽々と吹っ飛ばすと、そのままジャンピングボレーの態勢に入る。
アナウンサーは興奮気味に
「あーっと、アギラール君、これはその巨体に似つかわしくない大ジャンプからの嵐のようなアクロバティックなジャンピングボレーシュートだー!!」
と叫ぶ。

ドゴォ!!
高い位置からの叩きつけるような激しいシュートが若林ゴールを襲う。
「くっ!」
横っとびして手を伸ばす若林だが僅かに届かず、その指先をすり抜けたボールは...
ガコォ!!
ゴールポストの角に当たると、そのままゴールラインを超えてフィールド外へと逸れていく。

「ウォーーーー!!」
ゴールにはならなかったものの豪快でアクロバティックなアギラールのプレーに騒然となるスタジアムのギャラリー。
ゴールポストはまだミシミシと揺れている。
ぞーっとなる日本イレブン。

チリベンチでは
「あの練習ぎらい野郎、もう少しキックの精度を高めていれば..。」
という声が上がるが、エスタージョ監督は
「いや、これでいいんだ。これくらい荒れたシュートの方が若林からはゴールを奪いやすい。このシュートを何本もぶち込めばいずれ必ずキまる。」
二ヤリとして不敵につぶやくのだった。

 

 

中南米カップ 第16話

パタゴニアの暴れん坊

前半を終えたチリの控室は重苦しい空気に包まれていた。
終始試合を優勢に進めながらも最後の最後で1点のビハインドを負ってしまった精神的ダメージは思いのほか大きい。


ガコッ!とロッカーを拳で叩いて悪態をつくガッティ。
「クッソー、なんであんな奴らに。どうなってやがる!?」

そんなガッティをビジャーロがたしなめる。
「落ち着け、ガッティ。奴らは強い。それだけの事だ。」

ジャーロはさらに続ける。
「ドイツ・ブンデスリーガのワカバヤシだけじゃなく、FWのヒューガ、MFのユミクラ、マツヤマ、アオイ、こいつらも間違いなくワールドクラス。それにそれぞれのポジションに良い選手がそろっていてチームとしてのバランスもいい。」

少し間をおいてビジャーロは続ける。
「けど、後半はスタミナに勝る俺達の方が有利だ。それに俺達は逆境に強い。後半で俺達の真価を見せてやろーぜ!」
そう言い放つビジャーロの瞳は前半戦の試合中よりもさらに強い輝きを放っていた。
相手が強いほど、そして逆境でこそ、その真価を発揮する。それがビジャーロの特性でありチリイレブンの特性でもあった。

ジャーロの一声で気持ちを立て直したチリイレブンだったが、ジャーロの表情には一筋の翳りも見て取れた。
(ユミクラがあのツーステップスルーパスを繰り出せるとなると、自分が少し下がってユミクラをマークするしかない。そうなるとワカバヤシを攻略するカードが一枚足りない。)
それがビジャーロの憂いの理由だった。


と唐突に控室のドアが荒々しく開かれ、一人の大男が顔を出す。
アギラール!!」とチリイレブン。
試合前にビジャーロエスパージョ監督がちらりと話題にしていた選手である。

「やー、ワリ―ワリ―。ちょっと遅くなっちまったぜー。」
悪びれた様子もなく、そう言うアギラール
その大男にビジャーロはつかつかと歩み寄ると、
「バキイ!!」と鉄拳をくらわせ
「貴様!今頃、何しに来やがった!?」
と問いただす。

そんなビジャーロエスパージョ監督はたしなめる。
「まあ、待て、ビジャーロ。」
そして、アギラールに向かって
アギラール残念だがお前みたいにチームの規律を守れない試合に出すつもりは..」
ない、と言いかけた監督だったが、突如その口を止めて、まじまじと彼の風貌を眺めまわす。

荒野の荒い風に晒されてバサついた波打つ長髪、強い太陽の日差しに晒された灼けつくような褐色の肌、岩石のように固く引き締まった2m級の体躯、そして何よりも何かを渇望するようなギラギラとした強い眼光。

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「フーン。どうやら、放浪して野生を研ぎ澄ませてくるってセリフ、まったくの独りよがりの誇大妄想じゃあなさそうだな。」
エスパージョ監督はそう言うと、少し間をおいて続ける。
「ドイツ・ブンデスリーガのトップキーパー、ワカバヤシ、前半戦ではビジャーロのシュートを数本防いでやがる。
アギラール、コイツからゴールを奪えるか?」

「バチィーン!」と右拳と左手のひらを合わせ、ギラギラとした瞳をさらにギラつかせて
「当然だぜ。」と応えるアギラールだった。

中南米カップ 第15話

■最後の1ピース

「弓倉さんのこのプレイは...」
日本ベンチでも弓倉のプレイに対する懐疑の念が高まるが
「いや、だんだんタイミングが合ってきてる。このプレイはもしかしたら日本の中盤攻略の最後の1ピースになるかもしれないぞ。」
と井沢がつぶやく。

そんな展開が続く前半終了間際、またしても松山から託されたパスが弓倉へ向かう。
前線の状況を視認しながらパスコースへ走り込む弓倉は
「ここだ!ここしかない!!」
と瞳をギラリとさせる。
前半終了間際、一瞬気の緩んだチリのディフェンスラインが僅かに乱れているのだ
それにスタミナでは劣る日本、後半に入ればますます苦戦を強いられるだろう。決めるならここしかない。

しかしトラップ&パスモーションに入る弓倉に何かの危険を察してか先ほどまではマークを外していたはずのビジャーロが襲いかかる。
さすがの危機察知能力である。
しかし、そこに日向が弓倉とビジャーロの間に体を入れて防ぐ。
そして
「頼んだぜ、キャプテン!」
と叫ぶ。
「サンキュー日向!」
そう返しながら緻密にコースとタイミングの計算されたパスを前方へ繰り出す。



美しい奇跡を描くパスを左サイドの岡野が俊足を飛ばして受け取る
ギャラリーが一斉に注目する線審オフサイドフラッグは...上がらない。


あーっとこれはチリのゾーンを切り裂く弓倉君の鮮やかなツーステップスルーパスだー!!」
とアナウンサーが興奮気味に叫ぶ。


「これこそが監督が弓倉さんをトップ下に据えた意図...」
と興奮気味の井沢と自慢のサングラスをくいっとして思わず前のめりになる北詰監督。

翼と岬が不在の日本、高めのプレスで押し上げられたチリのディフェンスラインを切り裂く決定的なパスを繰り出すことのできる選手は弓倉をおいて他にいない。

「行けー!」
日本ベンチの声援を受けて快足を飛ばす岡野はゴールエリアへ近づくと
フォワードの若島津へとセンタリングを蹴り出す。

が、その瞬間クイッと軽くその裾が引っ張られる。
またしても”いたずらっ子”ピントである。

わずかに体勢を崩された岡野のパスは、走り込む若島津の後方の高い位置へと逸れてしまう。
「ああ~...」となる日本イレブン。
しかし若島図は高々と空中へジャンプして叫ぶ。

「このボールは意地でも絆ぐ!」

そして空中で反転して、空手の回し蹴りの要領でボールを後方へはたく。


そして、そのボールへ向かうのはさっき中盤で弓倉をサポートしていたはずの日向だ。

空中での回し蹴りからしなやかに降下する若島津の影とボールへと勢いよく飛翔する日向の影が交錯する。
あーっとこれは若島津君のローリングパスからの日向君のジャンピングワイルドタイガーショットだー!!」
と叫ぶアナウンサー。

ドギャッ!!
その日向の放つその鋭い弾道はチリゴールの左隅へと鮮やかに突き刺さるのだった。
「決まったー、ゴオオーーーール!!キーパー一歩も動けず!終始チリが押す展開でしたが初めにゴールを決めたのは日本だー!
と絶叫するアナウンサー。

苦戦の中での先取点、それにフォーワードにコンバートして間もない若島津と日向、東邦コンビの空中での共演に日本イレブンも大歓喜だ。

ピピイーーーーーー!!
そしてここで前半終了のホイッスルが鳴り響くのだった。

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中南米カップ 第14話

■格好悪くても...

体の痛みのせいか屈辱のせいかなかなか立ち上がれない弓倉に松山が駆け寄り
「大丈夫ですか?」
と手を差し伸べる。

弓倉は起き上がりながら「サンキュー、松山。」
と言った後に
「この試合、キャプテンもトップ下もお前の方が適任かもしれないな。」
とつぶやく。

そんな弓倉に、いつの間にか駆け寄っていた日向が
「キャプテンだからって格好つけてんじゃねーぜ。監督が弓倉さんをキャプテン、そしてトップ下にしたのには何か理由があるはずだ。」
と言い放つ。
「なにぃ!?」
となる弓倉に対して、松山があわてて
「まぁまぁ、コイツはバカだからこんな言い方しかできないけど、日本語に訳すと、俺達にもっと頼ってくれって意味ですよ!俺たちにもっと頼って、弓倉さんは自分にしかできない事にフォーカスしてください。」
とフォローして持ち場に戻る。

その後も不調の弓倉を擁しながらも互角に近い中盤戦を繰り広げる日本イレブンだったが、少しずつムードはチリへと片寄りはじめていた。

中盤でボールを奪っても、その後の攻撃のビジョンやゴールへのイメージの立たない日本と何度も日本ゴールを脅かすチリ。
それに加えてスタミナに勝るチリが徐々に再びその攻勢を強めてい

「弓倉さん、ほぼ棒立ちじゃねーか。」
日本ベンチで再び心配の声が上がり始めている。

ゲームにほとんど参加せずにヨロヨロ動く弓倉を
「オラッ、邪魔だぜ!」
とガッティが通り過ぎざまに肩で小突くがまったく抗う様子もない
そんな弱々しい挙動を横目で捉えながらも
「こいつ...!?」とガッティはなぜか一つの違和感を感じていた。

ブツブツと夢遊病者のように
「オレにできる事、オレにしかできない事...。」
とつぶやく弓倉の瞳はまだ死んでいないからだった。

 

 


そんな前半30分、少しずつ日本のボール保有率が少なくなる中、松山が粘り強くチリボールを奪った瞬間、
突如弓倉が
「くれっ、松山!」
とパスを要求する。

迷わず放り込まれたパスを受けると弓倉は
トラップからの2タッチ目で前方へスルーパスを送る。

通常スルーパスを繰り出す場合、トラップからパスまでの流れは3タッチまたはそれ以上のタッチ数で行われる事が多い。
1タッチ目でトラップ、2タッチ目でボールを蹴りやすい位置に調整、そして3タッチ目でパスという流れだ。
2タッチでのパスは、トラップからパスまでの時間が短く相手のマークを受けにくいというメリットがある一方で、ファーストタッチでトラップと同時にボールを蹴りやすい位置に調整しないといけない上に、その間にパスコースなどの状況判断も行わないといけないため困難が伴う。
ルーパスなど高度な状況判断とパスの精度が要求されるパスならなおさらだ。

案の定、このパスもチリのゾーンプレスによる高めのディフェンスラインの前にオフサイドを取られてしまう。
「ああ~...」
一瞬弓倉の復調を期待した日本イレブンとベンチにがっかり感が漂う。


しかし、その後も弓倉はパスを要求し2タッチによるスルーパスを繰り返すがタイミングが合わない。
松山や葵が粘り強く奪ったボールを弓倉がほんの数タッチ・数秒のプレイで台無しにしてしまう。
ボールを受けるサイドの岡野やフォワード陣も何度も走らされる。

この光景は決して見栄えの良い光景ではなかった。
観客からも野次やブーイングが起き始めている。

弓倉をマークするガッティも
「情けない奴だな。そんなにボールを持ってタックルを受けるのが怖いのか。」
と侮蔑するが、弓倉は一向に意に介する様子はない。

「悪いな松山、それにみんな。ここは甘えさせてもらうぞ。どんなにかっこ悪くても今の俺にできるのはこれしかないからな。
心の中でそう呟く弓倉の瞳にはもう何の迷いの色も見出すことはできなかった。

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中南米カップ 第13話

■堕ちたエース

葵の鮮烈なドリブル突破と日向の豪快なロングシュートを契機にペースを取り戻しつつある日本イレブン。
中盤で持前のキャプテンシーを発揮する松山を中心に、チリの強力な中盤の攻勢に対しても徐々に互角に近い攻防を繰り広げるようになっていた。


中盤の底でリーダーシップを発揮しながら粘り強いプレイを続ける松山。
俊敏な葵と俊足の岡野が2つのタイプの機動力で相手を翻弄し、沢田が周囲に細かく気を配る動きで味方をうまくサポートする。

ジャーロを中心としたタフで激しいゾーンプレスに、複数の個性の連携で対抗する日本。
ハイレベルな中盤の攻防に盛り上がるアステカスタジアム。

しかしそんな中にあっても一人ペースを取り戻せずにいる選手がいた。
日本のキャプテンで司令塔、チームの要になるはずの弓倉である。

日本ベンチでも
「弓倉さん調子悪そうだな。」
と心配の声が上がっている。
それに対して井沢が思わずつぶやく。
「調子もあるけど弓倉さんは、その..何ていうかここ中南米のサッカーとの相性があまり良くない感じがするな。」

弓倉は幼い頃からプロのクラブチーム傘下のジュニアチームに所属しサッカーの腕を磨き上げてきた、いわばエリート選手である。
洗練されたスキルを持ち合わせている反面、黄金世代のように個性豊かな同世代の選手同士でしのぎを削ってきた経験は少ない。そのせいかどこか線の細さが漂う。
たしかにクセのある選手やトリッキーなプレイやダーティーなプレイも多く、ノリや勢いを重視する中南米のサッカーとの相性はあまりよくないかもしれない。

「監督はなぜ弓倉さんをキャプテン、しかもトップ下に...?」
と井沢は北詰監督に問いかけた。

自慢のサングラスをきらりとさせて
「今に分かるはずだ。」
力強く応える北詰監督だったが
「...多分。」
と小さく言い添える事も忘れなかった。

ベンチでそんな会話が交わされている中で、松山からのパスが弓倉に渡る。
パスを受けた弓倉にまたしてもビジャーロが襲いかかる。

しかし、向かい来るビジャーロに「くっ!」と一瞬ひるむ弓倉の表情を見て取ったビジャーロは、チャージはせずに弓倉の脇をすり抜けてそのまま前方へと駆け出してしまう。
「なにぃ!?」となる弓倉と日本イレブン。
心の中で「コイツはもう終わったな。」とツブヤくビジャーロだった。

そして、動揺を隠せない弓倉にガッティが
「お前なんかヤツが相手にするまでもないって事だ!」
と蔑んだ口調で言いながら激しいタックルをブチかます
またしても3メートル以上吹き飛ばされる弓倉。

ピピイーーーーーー!!
このタックルにはさすがにファウルのホイッスルが鳴り響く。

しかしファウルを取られたとはいえ一試合の前半だけでエースが2度も3メートル以上吹き飛ばされる、
しかも2度目は相手のエースのビジャーロではなくそれ以外の選手にというのは弓倉にとっても日本イレブンにとってもかなり屈辱の光景だった。

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中南米カップ 第12話

■反撃へのムチャぶり!?

「もらったぞ、ワカバヤシ!」
ジャーロの右足が鋭く振り下ろされる。

と、そこに肉食獣のような獰猛で俊敏な一筋の影がビジャーロの足元をよぎる。
「なにイ!?」
日向である。
フォワード日向のスライディングタックルがビジャーロを襲いボールを奪った。

「あの9番、ペナルティエリア内で怖くねーのかよ。」
観客席では観衆のそんな声もチラチラ聞こえる。


フォワードが味方ゴール前まで下がる、それに自陣ペナルティーエリア内でのファールリスクの高い激しいタックル。
賛否や評価の分かれる際どいプレーに、低くザワつくスタジアム。

日向は、そんな事にはお構いなしに、すぐさま立ち上がると近くにいた葵にパスを出し
「葵、ドリブルだ!ドリブルで一気にゾーンを切り裂け!!」と叫ぶ。


「えっ!?ええ~~!??」と葵。
ドリブルは通常は相手陣内、特にゴール近辺で仕掛ける事が多い。抜けば決定的なチャンスになるし万一ボールを取られてしまっても味方ゴールから距離があるのですぐにピンチには直結しないからである。逆に味方ゴール近くでドリブルを仕掛けるという事は少ない。うまく相手を抜いたとしてもそれほど局面が変わるわけではないし、ボールを奪われたら決定的なピンチになってしまう。つまりハイリスクの割にローリターンだからである。

"正気ですか?全力でお断りします"、そんな意志をアイコンタクトで日向に送る葵だが、日向は有無を言わさない瞳でギラリと睨みつけてくるばかりである

(くっそー、日向さんのヤツ、イタリアでは俺の方が先輩なのに...)
そんな事を思いつつも、葵がずっと憧れてきた黄金世代の中でもエース級の日向の指示である。
断るわけにはいかない。それに...。
この位置からのドリブル突破、ちょっと面白そうである。

「よし!」
というと迫ってくる相手選手に対して...。
チョンと股の間にボールを通す。
葵の得意技の1つ、股抜きシュートの応用、股抜きドリブルである。
「なにイ!?」
てっきりキーパーに戻すかサイドに逃げると思っていたチリFWはまさかのドリブル、しかもまさかの自軍ペナルティエリア内での股抜きドリブルに完全に意表を突かれてあっさりと抜かれてしまう。

想定外の事態に浮足立つチリ選手をチョコマカとしたドリブルでさらにもう一人かわすと、葵は一気にギアを上げる。

「青い信号は止まらない!」
トップスピードに乗りこのセリフがとび出した時の葵のドリブルはちょっと驚異的である。
さらに一気に数人のチリ選手を抜き去る。
慌ててフォローに入ったピントがスッとシャツを引っ張ろうとするが、
「そうゆうプレイならイタリアで慣れっこさ!」
とこれも手ではたきながらかわす。

と、チリ中盤の底に位置するチリ中盤のディフェンスの要ガッティが
「バカめ、ボールを持ち過ぎだ!」
と立ちはだかる。

が、ここで葵は得意技、ルート・グーリット直伝の直角フェイントを繰り出す。
ちょこまかとした細かいボールピッチのドリブルから一転しての大きなストライドの直角のフェイントに対応できないガッティも瞬時に抜き去る。

「あーっと、葵君、まさかの味方ペナルティエリア内からのとんでもないドリブル突破です!日本ついにこの試合初めてセンターラインを突破しましたー!
とアナウンスされたその瞬間、
「No memes(フザけるな)!!」
と、斜め後方からミサイルのような直線的で猛々しいスライディングタックルが葵を襲う。
ジャーロである。

と、ここで
ピイイーーーーーー!!
とホイッスルが鳴り、ビジャーロイエローカードが出される。

観客席でウルグアイの火野が
「冷静なビジャーロが珍しいな。」
とつぶやくと、ビクトリーノが
「Haha-!どうやら"中盤のコンキスタドール"様は自分の絶対的な聖域を侵されてお怒りみてーだぜ。」
と返す。

「大丈夫か?」
と慌てて駆け寄る日向に、葵は
「イタタタタ、日向さんイタいっす。」
と恨めしそうな視線を向ける。

日向は、葵が負傷していない事を見て取ると、葵の視線にはお構いなしで
「見ろ、葵。」
と言って観客席に視線をやる。

「うおおおおーー、いいぞーチビッ子ー♪!」
戦術的には必ずしも褒められたプレイではないが、ここ中南米のギャラリーはそんな事はお構いなし、手放しで大喜びである。

「いいか、葵。流れが悪い時にはこんな風に何でもいいから一発ブチかまして流れを変えるんだ。」
と言うと不満顔の葵を尻目に、ボールを素早くフリーキックの位置へプレイスすると前方へ駆けだす。そしてタケシがスッとそのボールへ駆けより素早く日向へと蹴り出す。
息のとれたクイックリスタートに一瞬対応の遅れるチリイレブンを尻目に日向はセンターライン近くの位置から思い切りよく豪快な超ロングシュートを放つ。
その弾道は「チッ!」ゴールポストを僅かにかすめてゴールの枠外へと逸れていく。
得点とはならなかったもののゴールを鮮烈にイメージさせるその弾道に
ぞーっとす立ちすくむチリイレブン。そして「ウオオーーー!!」と盛り上がるギャラリー。

「くっそ!」
と軽く悔しがる日向だったが、この日向のシュートと葵のドリブルは試合の流れを転換させるのに十分なものだった。

「チッ、あの日本の9番、勝負のやり方を知ってやがる。」
苦虫をかみつぶしたような顔で悪態をつくチリ・エスタージョ監督だった。

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