中南米カップ 第18話
■名君&暴君
前半終了直前に1点を奪い流れに乗るかと思われた日本だったが、後半投入の暴れん坊アギラールのファーストプレーとその存在感は試合の流れをチリへと引き戻すのに十分なものだった。
中盤では、アギラールの加入によって中盤に専念する事が出来るようになった鉄人ビジャーロがその支配力を取り戻していた。
前半に1点を奪う契機になった弓倉のワンステップスルーパスも、前半よりも少しポジションを下げたビジャールによって完全に封じ込まれている。
そんな後半5分、ビジャーロはボールを持つと、すかさず高いロングの縦パスを前線へと放り込む。
どちらかというと着実にゲームを組み立てていくタイプの司令塔であるビジャーロにはあまり似つかわしくないプレー、そして前半戦ではあまり見られなかったプレーだ。
そのボールに向かって飛翔し
「ううぉーー!!」
と日本ディフェンス陣を押しのけてボールに迫るのはアギラール。
どうやらアギラールの空中での競り合いの強さを見越しての高い縦パスのようである。
アギラールは肩でそのパスをトラップしてボールを軽く浮かせると再び豪快なジャンピングボレーを繰り出す。
ドゴォーーッ!!
このシュートはキーパーのほぼ真正面、若林の顔面近くを襲うボールを若林は両手でパンチングして防ぐ。
「どけー!!」
高々とゴール前に舞い上がったそのボールに、相手ディフェンダーだけでなく、味方のチリイレブンすらも押しのけて走り込むアギラール。
「ワシが止めるタイ!!」
パワーと体躯では負けていない次藤が空中で競り合う。...が...。
「あーっと、巨漢2人のパワー対決を制したのはアギラール君!!」
とアナウンサー。
どうやらパワーでは拮抗しているものの跳躍力と空中でのボディバランスと闘争能力で勝っているアギラールに、空中での競り合いでは分があったようだ。
「空中での競り合いなら誰にも負けねー!!」
アギラールはそう叫びながら叩きつけるようにボールをゴールへ向かってヘッディングする。
ドギャッ!!
が、そのシュートはわずかにゴールの枠外へと逸れていく。
「た、助かったのか...!?」
とホッとする日本イレブン。
「あーっと、これは何ともはや..!!暴君アギラール君の一人舞台!!やや独り相撲とも言えるような暴れっぷりです!」
とアナウンサーは興奮気味である。
その後も同様の展開が続いた。
中盤で、ビジャーロが主導するプルスロットルのゾーンプレスでボールを奪取すると、すぐさま前線へと高いボールを放り込む。
そして前線では、空中戦で圧倒的・暴力的な強さを誇るアギラールが大暴れする。
「あーっと、ダークホース・チリ、ついにその真価を発揮し始めました。中盤では名君ビジャーロ君がその支配力を発揮し、前線では暴君アギラール君が大暴れしています!!」
とアナウンサー。
「つ、強い...。」となる日本イレブン。
中南米カップ 第17話
■チリの復権
ピイィィィ――――――――――――!!
「さぁー、いよいよチリvs日本、後半戦が始まりました。」
とアナウンサー。
彼は更に続ける。
「チリは選手交代があったようです。
FW xxx君に代わって、FWアレハンドラ・アギラール君、
身長194cm、体重99kg、
手元の資料によるとチリのクラブチームを転々としている選手のよ
そんな後半5分、はじめにチャンスを手にしたのはチリだった。
トップ下のビジャーロが松山の激しいタックルを持前のフィジカル
ビジャーロ→ピントのライン、チリの必勝パターンの1つである。
そのパスをすかさず高々とセンタリングするピント。
そのボールを目で追いながら
「クックックッ、暴れてこいアギラール。」
瞳をギラリとさせて不敵につぶやくエスタージョ監督。
そのアギラールは、
「どけっ、チビども!!」
とジャンプして空中で軽々と吹っ飛ばすと、
アナウンサーは興奮気味に
「あーっと、アギラール君、
と叫ぶ。
ドゴォ!!
高い位置からの叩きつけるような激しいシュートが若林ゴールを襲
「くっ!」
横っとびして手を伸ばす若林だが僅かに届かず、
ガコォ!!
ゴールポストの角に当たると、
「ウォーーーー!!」
ゴールにはならなかったものの豪快でアクロバティックなアギラー
ゴールポストはまだミシミシと揺れている。
ぞーっとなる日本イレブン。
チリベンチでは
「あの練習ぎらい野郎、もう少しキックの精度を高めていれば..
という声が上がるが、エスタージョ監督は
「いや、これでいいんだ。
二ヤリとして不敵につぶやくのだった。
中南米カップ 第16話
■パタゴニアの暴れん坊
前半を終えたチリの控室は重苦しい空気に包まれていた。
終始試合を優勢に進めながらも最後の最後で1点のビハインドを負
ガコッ!とロッカーを拳で叩いて悪態をつくガッティ。
「クッソー、なんであんな奴らに。どうなってやがる!?」
そんなガッティをビジャーロがたしなめる。
「落ち着け、ガッティ。奴らは強い。それだけの事だ。」
ビジャーロはさらに続ける。
「ドイツ・ブンデスリーガのワカバヤシだけじゃなく、
少し間をおいてビジャーロは続ける。
「けど、後半はスタミナに勝る俺達の方が有利だ。
そう言い放つビジャーロの瞳は前半戦の試合中よりもさらに強い輝
相手が強いほど、そして逆境でこそ、その真価を発揮する。
ビジャーロの一声で気持ちを立て直したチリイレブンだったが、
(ユミクラがあのツーステップスルーパスを繰り出せるとなると、
それがビジャーロの憂いの理由だった。
と唐突に控室のドアが荒々しく開かれ、一人の大男が顔を出す。
「アギラール!!」とチリイレブン。
試合前にビジャーロとエスパージョ監督がちらりと話題にしていた選手
「やー、ワリ―ワリ―。ちょっと遅くなっちまったぜー。」
悪びれた様子もなく、そう言うアギラール。
その大男にビジャーロはつかつかと歩み寄ると、
「バキイ!!」と鉄拳をくらわせ
「貴様!今頃、何しに来やがった!?」
と問いただす。
そんなビジャーロをエスパージョ監督はたしなめる。
「まあ、待て、ビジャーロ。」
そして、アギラールに向かって
「アギラール、
ない、と言いかけた監督だったが、突如その口を止めて、
荒野の荒い風に晒されてバサついた波打つ長髪、
「フーン。どうやら、
エスパージョ監督はそう言うと、少し間をおいて続ける。
「ドイツ・ブンデスリーガのトップキーパー、ワカバヤシ、
アギラール、コイツからゴールを奪えるか?」
「バチィーン!」と右拳と左手のひらを合わせ、
「当然だぜ。」と応えるアギラールだった。
中南米カップ 第15話
■最後の1ピース
「弓倉さんのこのプレイは...」
日本ベンチでも弓倉のプレイに対する懐疑の念が高まるが
「いや、だんだんタイミングが合ってきてる。このプレイはもしかしたら日本の中盤攻略の最後の1ピースになる
と井沢がつぶやく。
そんな展開が続く前半終了間際、
前線の状況を視認しながらパスコースへ走り込む弓倉は
「ここだ!ここしかない!!」
と瞳をギラリとさせる。
前半終了間際、
それにスタミナでは劣る日本、
しかしトラップ&
さすがの危機察知能力である。
しかし、そこに日向が弓倉とビジャーロの間に体を入れて防ぐ。
そして
「頼んだぜ、キャプテン!」
と叫ぶ。
「サンキュー日向!」
そう返しながら緻密にコースとタイミングの計算されたパスを前方
美しい奇跡を描くパスを左サイドの岡野が俊足を飛ばして受け取る
ギャラリーが一斉に注目する線審のオフサイドフラッグは...
「
とアナウンサーが興奮気味に叫ぶ。
「これこそが監督が弓倉さんをトップ下に据えた意図...」
と興奮気味の井沢と自慢のサングラスをくいっとして思わず前のめ
翼と岬が不在の日本、高めのプレスで押し上げられたチリのディフェンスラインを切り裂く決定的なパスを繰り出すことのできる選手は弓倉をおいて他にいない。
「行けー!」
日本ベンチの声援を受けて快足を飛ばす岡野はゴールエリアへ近づ
フォワードの若島津へとセンタリングを蹴り出す。
が、その瞬間クイッと軽くその裾が引っ張られる。
またしても”いたずらっ子”ピントである。
わずかに体勢を崩された岡野のパスは、
「ああ~...」となる日本イレブン。
しかし若島図は高々と空中へジャンプして叫ぶ。
「このボールは意地でも絆ぐ!」
そして空中で反転して、空手の回し蹴りの要領
そして、
空中での回し蹴りからしなやかに降下する若島津の影とボールへと
「
と叫ぶアナウンサー。
ドギャッ!!
その日向の放つその鋭い弾道はチリゴールの左隅へと鮮やかに突
「決まったー、ゴオオーーーール!!キーパー一歩も動けず!
と絶叫するアナウンサー。
苦戦の中での先取点、
ピピイーーーーーー!!
そしてここで前半終了のホイッスルが鳴り響くのだった。
中南米カップ 第14話
■格好悪くても...
体の痛みのせいか屈辱のせいかなかなか立ち上がれない弓倉に松山
「大丈夫ですか?」
と手を差し伸べる。
弓倉は起き上がりながら「サンキュー、松山。」
と言った後に
「この試合、
とつぶやく。
そんな弓倉に、いつの間にか駆け寄っていた日向が
「キャプテンだからって格好つけてんじゃねーぜ。監督が弓倉さんをキャプテン、そしてトップ下にしたのには何か理由があるはずだ。」
と言い放つ。
「なにぃ!?」
となる弓倉に対して、松山があわてて
「まぁまぁ、
とフォローして持ち場に戻る。
その後も不調の弓倉を擁しながらも互角に近い中盤戦を繰り広げる
中盤でボールを奪っても、その後の攻撃のビジョンやゴールへのイメージの
それに加えてスタミナに勝るチリが徐々に再びその攻勢を強めてい
「弓倉さん、ほぼ棒立ちじゃねーか。」
日本ベンチで再び心配の声が上がり始めている。
ゲームにほとんど参加せずにヨロヨロ動く弓倉を
「オラッ、邪魔だぜ!」
とガッティが通り過ぎざまに肩で小突くがまったく抗う様子もない
そんな弱々しい挙動を横目で捉えながらも
「こいつ...!?」
ブツブツと夢遊病者のように
「オレにできる事、オレにしかできない事...。」
とつぶやく弓倉の瞳はまだ死んでいないからだった。
そんな前半30分、少しずつ日本のボール保有率が少なくなる中、
突如弓倉が
「くれっ、松山!」
とパスを要求する。
迷わず放り込まれたパスを受けると弓倉は
トラップからの2タッチ目で前方へスルーパスを送る。
通常スルーパスを繰り出す場合、トラップからパスまでの流れは3タッチまたはそれ以上のタッ
1タッチ目でトラップ、
2タッチでのパスは、
スルーパスなど高度な状況判断とパスの精度が要求されるパスなら
案の定、
「ああ~...」
一瞬弓倉の復調を期待した日本イレブンとベンチにがっかり感が漂
しかし、
松山や葵が粘り強く奪ったボールを弓倉がほんの数タッチ・
ボールを受けるサイドの岡野やフォワード陣も何度も走らされる。
この光景は決して見栄えの良い光景ではなかった。
観客からも野次やブーイングが起き始めている。
弓倉をマークするガッティも
「情けない奴だな。
と侮蔑するが、弓倉は一向に意に介する様子はない。
「悪いな松山、それにみんな。ここは甘えさせてもらうぞ。
心の中でそう呟く弓倉の瞳にはもう何の迷いの色も見出すことはで
中南米カップ 第13話
■堕ちたエース
葵の鮮烈なドリブル突破と日向の豪快なロングシュートを契機にペ
中盤で持前のキャプテンシーを発揮する松山を中心に、
中盤の底でリーダーシップを発揮しながら粘り強いプレイを続ける
俊敏な葵と俊足の岡野が2つのタイプの機動力で相手を翻弄し、
ビジャーロを中心としたタフで激しいゾーンプレスに、
ハイレベルな中盤の攻防に盛り上がるアステカスタジアム。
しかしそんな中にあっても一人ペースを取り戻せずにいる選手がい
日本のキャプテンで司令塔、チームの要になるはずの弓倉である。
日本ベンチでも
「弓倉さん調子悪そうだな。」
と心配の声が上がっている。
それに対して井沢が思わずつぶやく。
「調子もあるけど弓倉さんは、その..
弓倉は幼い頃からプロのクラブチーム傘下のジュニアチームに所属
洗練されたスキルを持ち合わせている反面、
たしかにクセのある選手やトリッキーなプレイやダーティーなプレ
「監督はなぜ弓倉さんをキャプテン、しかもトップ下に...?」
と井沢は北詰監督に問いかけた。
自慢のサングラスをきらりとさせて
「今に分かるはずだ。」
力強く応える北詰監督だったが
「...多分。」
と小さく言い添える事も忘れなかった。
ベンチでそんな会話が交わされている中で、
パスを受けた弓倉にまたしてもビジャーロが襲いかかる。
しかし、向かい来るビジャーロに「くっ!」
「なにぃ!?」となる弓倉と日本イレブン。
心の中で「コイツはもう終わったな。」
そして、動揺を隠せない弓倉にガッティが
「お前なんかヤツが相手にするまでもないって事だ!」
と蔑んだ口調で言いながら激しいタックルをブチかます。
またしても3メートル以上吹き飛ばされる弓倉。
ピピイーーーーーー!!
このタックルにはさすがにファウルのホイッスルが鳴り響く。
しかしファウルを取られたとはいえ一試合の前半だけでエースが2
しかも2度目は相手のエースのビジャーロではなくそれ以外の選手
中南米カップ 第12話
■反撃へのムチャぶり!?
「もらったぞ、ワカバヤシ!」
ビジャーロの右足が鋭く振り下ろされる。
と、
「なにイ!?」
日向である。
フォワード日向のスライディングタックルがビジャーロを襲いボー
「あの9番、ペナルティエリア内で怖くねーのかよ。」
観客席では観衆のそんな声もチラチラ聞こえる。
フォワードが味方ゴール前まで下がる、
賛否や評価の分かれる際どいプレーに、低くザワつくスタジアム。
日向は、そんな事にはお構いなしに、
「葵、ドリブルだ!ドリブルで一気にゾーンを切り裂け!!」
「えっ!?ええ~~!??」と葵。
ドリブルは通常は相手陣内、特にゴール近辺で仕掛ける事が多い。
"正気ですか?全力でお断りします"、
(くっそー、日向さんのヤツ、イタリアでは俺の方が先輩なのに.
そんな事を思いつつも、
断るわけにはいかない。それに...。
この位置からのドリブル突破、ちょっと面白そうである。
「よし!」
というと迫ってくる相手選手に対して...。
チョンと股の間にボールを通す。
葵の得意技の1つ、股抜きシュートの応用、
「なにイ!?」
てっきりキーパーに戻すかサイドに逃げると思っていたチリFWは
想定外の事態に浮足立つチリ選手をチョコマカとしたドリブルでさ
「青い信号は止まらない!」
トップスピードに乗りこのセリフがとび出した時の葵のドリブルは
さらに一気に数人のチリ選手を抜き去る。
慌ててフォローに入ったピントがスッとシャツを引っ張ろうとする
「そうゆうプレイならイタリアで慣れっこさ!」
とこれも手ではたきながらかわす。
と、チリ中盤の底に位置するチリ中盤のディフェンスの要ガッティが
「バカめ、ボールを持ち過ぎだ!」
と立ちはだかる。
が、ここで葵は得意技、ルート・
ちょこまかとした細かいボールピッチのドリブルから一転しての大
「あーっと、葵君、
とアナウンスされたその瞬間、
「No memes(フザけるな)!!」
と、
ビジャーロである。
と、ここで
ピイイーーーーーー!!
とホイッスルが鳴り、ビジャーロにイエローカードが出される。
観客席でウルグアイの火野が
「冷静なビジャーロが珍しいな。」
とつぶやくと、ビクトリーノが
「Haha-!どうやら"中盤のコンキスタドール"
と返す。
「大丈夫か?」
と慌てて駆け寄る日向に、葵は
「イタタタタ、日向さんイタいっす。」
と恨めしそうな視線を向ける。
日向は、葵が負傷していない事を見て取ると、
「見ろ、葵。」
と言って観客席に視線をやる。
「うおおおおーー、いいぞーチビッ子ー♪!」
戦術的には必ずしも褒められたプレイではないが、
「いいか、葵。
と言うと不満顔の葵を尻目に、
息のとれたクイックリスタートに一瞬対応の遅れるチリイレブンを
その弾道は「チッ!」
得点とはならなかったもののゴールを鮮烈にイメージさせるその弾
ぞーっとす立ちすくむチリイレブン。そして「ウオオーーー!!」
「くっそ!」
と軽く悔しがる日向だったが、
「チッ、あの日本の9番、勝負のやり方を知ってやがる。」
苦虫をかみつぶしたような顔で悪態をつくチリ・