中南米カップ 第11話
■中盤のコンキスタドール
チリVS日本、怒涛の3分間以降は一方的な展開が続いた。
試合の流れを掴んで勢いに乗るチリと浮足立ち後手に回る日本。
ディフェンスラインを上げて中盤に数的優位を作り出し激しいプレ
苦し紛れに前方へロングパスを出してもチリのディフェンスライン
「あーっと、これはかなり一方的な展開、
激しいプレスによって何度も低い位置でボールを奪われ、
若林がどうにか防いでいるものの、
「なんで攻勢だ。
と日本側ペンチの井沢がつぶやく。
井沢は更に続ける。
「流れが悪いってのもあるけど、
その後を井出が引き継ぐ。
「うん、
ゲキを飛ばして味方を鼓舞しながら的確に味方に指示を出しつつ、
「中盤のコンキスタドール、征服者…。」
とゴクリとする日本ベンチ。
ベンチでそんな会話が交わされている間にもそのコンキスタドール
そして「日本が失点を許すのは時間の問題...」「
そしてすぐさま左へはたくと、
流れや勢いがある時には運もそれに味方をするのか、
「くっ!」
それでも若林は懸命にパンチングでしのぐ。
しかしサイドにこぼれたボールをピントがすかさず拾い、
混戦の中、
若林の体制がまだ整っていない事を視認すると
「もらったぞ、ワカバヤシ!」
と、
中南米カップ 第10話
■ファーストインパクト
数秒後。
ピイィィィ――――――――――――!!
ホイッスルが鳴り響き
「さあ、いよいよ日本ボールで試合が始まりました!」
とアナウンサーが告げる。
そして日向がセンターサークルのボールをチョンと若島津へ渡す。
いよいよ試合開始である。
と、そこへチリFW陣がものすごい勢いで詰め寄る。
「!?」
"チリは序盤から激しいプレスを仕掛けてくる"、
あわてて若島津はミッドフィルダー岡野へとボールを下げるが、
たちまちの内にフォワードからミッドフィルダー、
「あわわっ!」
と、弓倉にボールが渡った瞬間、チリ選手の目の色が変わり、
「なにぃ!?」と日本イレブン。
しかし弓倉は
「させるか!」
と読売サッカークラブ生え抜きの選手として磨き抜かれたテクニッ
そこへビジャーロが猛然と襲い掛かってくる。
「あーっと、
キラリと瞳と瞳を交わす2人のキャプテン。
と、2人の選手に注目が集まった瞬間、
"いたずらっ子"ピントである。
「くっ!」
一瞬注意を逸らされた瞬間、ビジャーロの強烈なショルダーチャージ
ガッ!!
軽く3メートル以上吹っ飛ぶ弓倉。
「あーっと、キャプテン対決を制したのはチリのビジャーロ君!
どうやらファールではないし怪我もないようだが、
その瞬間、「Si(よし)!」と軽くガッツポーズをするチリ・
そして「..勝った。」と二ヤリと小さくつぶやく。
観客席では、ウルグアイのビクトリーノが
「Oh,No!!お前のダチずいぶん派手に吹っ飛ばされたなー。
と隣の火野に語りかける。火野は
「ああ、"喧嘩屋"エスタージョ、早速仕掛けてきやがったな。」
と返す。
火野のそんな洞察は当たっていた。
「フルタイム・フルスロットル・ゾーンプレス」。
作戦と言えばこれくらいで具体的な指示をいつもほとんど出さない
「試合開始直後に背番号7日本キャプテン・ユミクラを集中的・
勝負は先手必勝、
エスタージョ監督が立てた単純にして唯一の策がこれだったのであ
試合開始直後にキャプテンが3m以上ふっとばされてボールを奪われる。このインパクトは、日本イレブンを動揺させ、会場の空気を決定づけるのに十分なものだった。
浮足立つ日本と勢いづくチリ、
そしてゴール前の良い位置でボールを受けシュートモーションに入
「いくぜ、ワカバヤシ!」
「くそっ!来い、ビジャーロ!」と若林。
ドゴオオ!!
鈍い音を立てて鉄球のような重たいシュートが日本ゴールを襲う。
「くっ!」
しかし若林は横っとびで片手をどうにか届かせてボールの勢いを弱
「あーっと、ビジャーロ君、
とアナウンサー。
「ドオオオオーーー!!」
ワールドクラスのスーパーシュートとファインセーブに大きな歓声
若林は
「ふうッ、なんて重たいシュートだ。
とつぶやく。
シュートが異様に重たい、
「いやー、試合開始からわずか3分、怒涛のチリの攻勢でした!
と興奮気味のアナウンサー。
しかしこのトッププロ2人の表情はこのアナウンサーの言及とは裏
「さすがだな、ワカバヤシ。しかし想定内だ、
「ちっ..。」
一方の若林は、このビジャーロの意図を察してか、
中南米カップ 第9話
■開幕戦!チリ vs 日本
波乱含みの開幕フェスから明けて2日後。
メキシコシティにあるサッカースタジアム、エスタディオ・
日本側の控室の日本イレブンもさすがにピリピリとした雰囲気だ。
ホワイトボードには今大会の対戦表が掲げられている。
■Aグループ
チリ、日本、ベネズエラ、パナマ
■Bグループ
パラグアイ、韓国、コスタリカ、ニカラグア
■Cグループ
ウルグアイ、ペルー、ジャマイカ、グアマテラ
■Dグループ
メキシコ、コロンビア、ボリビア、エクアドル
各グループごとに総当たり戦を行ない、
部屋の中央には、
今回の日本代表監督、北詰誠である。
名門東邦学園サッカー部の監督として同校を何度も全国優勝に導い
今大会急な参加決定だったためスケジュールが合わずなかなかオフ
「今回のスタメンを発表する!」
彼はそう言うとおもむろにホワイトボードに今日の試合にフォーメ
FW:日向 若島津
OH:弓倉 岡野 沢田
DH:松山 葵
DF:早田 石崎 次頭
GK:若林
今回どうしてもスケジュールの調整がつかず不参加の翼・
ドイツから昨晩到着したばかりで右腕のケガの完治していない若林
大事な初戦、
そして北詰監督は続ける。
「対戦相手のチリは、スタミナと運動量の豊富なタフな選手が多いチーム。
前半からそして前線からガンガン激しいプレスを仕掛けくる。
どうやら中盤を制圧されないためのダブルボランチ・
「フルタイムでゾーンプレスってどんなブラック戦術だよ..。」
とスタミナと気合には自信のある石崎もさすがに引いている。
「続けて僕が要チェック選手について解説するんだな。」
井出が前に出て解説を始める。
「
「フェスで会ったボール押さえ込みヤローか...。」「"
ゴクリとする日本イレブン。
井出はさらに続ける。
「もう一人のキープレーヤーは背番号7のミッドフィルダー、"
「あのイタズラちび助かー。」
井出はさらに付け加える。
「もう一人挙げるとするなら、
一方のチリ側控え室。
チリイレブンの中心には日本の北詰監督とは対照的なワイルドな風
「今日もいつもどおりの「炎のフルタイムフルスロットルゾーンプレス」
「Si!Animo!!」とイレブンも力強くそれに応える。
特に熱狂的なエスタージョ監督信者であるホセ・
ムードメーカーのピントも、
と、
「監督、アイツとはまだ連絡がつかないんですか?」
エスタージョ監督は、チッと舌打ちして。
「アギラールのヤローか。
今日中には合流するとか言ってやがったが、
と不機嫌そうに答える。
「ドイツブンデスリーガ・ハンブルグの正ゴールキーパー、
とビジャーロは瞳をギラリとさせる。
どうやら同じ世界クラスのトッププロである若林をかなり意識して
数分後、ピッチにはすでに両チームイレブンが散り始め、
チリの選手は、身長こそ欧米人ほどは高くないものの、
アナウンサーが解説を始める。
「さあ、いよいよ中南米カップ開幕戦、
まず日本。フォワード9番コジロー・ヒューガ、15番ケン・
と続き
「...ゴールキーパー1番ゲンゾー・ワカバヤシ」
と若林がアナウンスされたところで一際大きな歓声が上がる。
さすがにドイツブンデスリーガのトッププロ、
アナウンサーは続ける。
「続いてチリ、フォワードは....そして、ミッドフィルダー 10番アンヘル・ビジャーロ、..」
ここでは若林の時よりもさらに大きな歓声が上がる。
ここ中南米メキシコの地ではビジャーロの方が知名度は若林よりも
続いて
「7番ティト・ピント、ディフェンシブハーフ5番ホセ・
とアナウンスされると、ここでもなかなか大きな歓声が上がる。
来期からブラジルのサントスへの移籍が決まっているピントとチリ
と、ディフェンダーの石崎がわざわざフォワードの方へかけよって
「オーイ日向ー、
とイタリア2部リーグ・セリエBに所属し今回は特に歓声の挙がらなかった日向を軽くからかう。
てっきりシバかれると身構えていた石崎だが、
「みてーだな、試合後にはその評価、一変させてやるぜ。」
と瞳をギラリとさせている。
(ハハッ、そういやこーゆうヤツだったな..)
と呆れる石崎だった。
灼熱の中南米カップ - 目次 -
(続く)
中南米カップ 第8話
■ 夕闇の邂逅(2) ■
メキシコ代表キャプテン・エスパダス、パラグアイ代表キャプテン・ダルバロス、2人のビッグネームに差し挟まれる形になったジェペス。
しかも2人はそれぞれ強力な代表メンバーを引連れている。
さすがに多少気圧されてはいるが、怒りは収まっていないようだ。
そしてその怒りの矛先は、後から突如現れて会場の空気をすべて味方に付けてしまったエスパダスへと向けられている。
と、そこにジェペスの肩に手を置いて
「この辺にしておけ。」
と言ってスッと前面に出る一つの黒い影。
金色のラフな長髪、引き締まったしなやかな褐色の肢体。そして左腕にはサソリのタトゥー。
「ハ、ハメス...フォルテーザ...!」
"左の死神"と恐れられるコロンビア代表キャプテン、ダークヒーローの登場にギャラリーから低いどよめきが起こる。。
地元のスーパーヒーロー、エスパダスの登場時の熱狂とは対照的な冷気を帯びた不穏なざわめきが会場に伝播してゆく。
メキシコのエスパダス、パラグアイのダルバロス、それにコロンビアのフォルテーザ、図らずも今大会のビッグネームが並び立つ事となり、独特のピリピリとした緊張感、そして一瞬の静寂が会場に漂う。
「Hey、エスパダス。」
そのピリつく空気と一瞬の静寂を切り裂いたのはフォルテーザである。
「この大会、俺達コロンビアの初戦の相手はお前らメキシコ、仲良くヤろーぜ♪」
と言いながら1枚の用紙をエスパダスの方へパチンとはじいて渡す。
今大会の対戦表である。すでに会場のどこかで発表されているようだ。
「!!」とメキシコのアステカ5戦士。
「ヒュウッ♪」と口を鳴らすコロンビアのジェペス。
そして「うおー、マジかー!!」と一気に盛り上がるギャラリー。
空気が変わりジェペスの暴挙からギャラリーの関心が逸れた事を見て取るとフォルテーザは、行くぜ、というように首をくいと動かして、コロンビアイレブンを促し、その場を立ち去るのだった。
その傍ら、死角になる位置のサボテンの木の陰。
「チェッ、ざ~んねん。せっかく面白くなりそうだったのに~。」
隠れてドリンクを飲みながら一部始終を高みの見物していた一つの影が呟く。
このトラブルを仕組んだ張本人ペルーの"イケメン俳優"ピエロタだ。
残り少なくなったドリンクをだらしなくチューチューさせていた彼だったが、不意に冷たく鋭い視線に気づく。
視線の元に目をやると、フォルテーザが立ち去り際にピエロタの方を一瞥している。
すべてを見透かすような怜悧な眼光。口元はわずかにニヤリと緩んでいる。
「お~コワいコワい♪」
おどけたように一人つぶやくピエロタだったが、そのこめかみには一筋の冷たい汗が滴り落ちていた。
中南米カップ 第7話
■夕闇の邂逅① -- フィールドのプレジデント -- ■
「まったくさっきのチリの2人と言い今回のイケメンチャラ男と言い、南米って濃い~ヤローばっかだな。」
と呆れる石崎。
午後5時に始まったフェスはそろそろ午後6時、メキシコの紅い太陽は黄金色の光を帯び始め、かなりその傾きを増してきている。
いわゆる"逢魔が時"、日本ではそう呼ばれる時間帯である。
一説によればこの時間帯、人はバイオリズムの関係で判断力や認知力が著しく低下するのだとか..。
と、突然背後で怒号が鳴り響いた。
「Que estas xxx xxxx ...!!」
振り返ると、なんと立花兄弟が凶悪そうな大柄の男に胸ぐらをつかまれている。
左右それぞれの腕で2人を掴みあげているのだ。
その屈強な両腕にはヒョウ柄のタトゥーが一面に施されている。
床には散乱するドリンクカップ。
どうやら立花兄弟の落してしまったカップの飲み物がその男にかかってしまったようだ。
軽量の立花兄弟は完全に地面から浮いてしまっている。
「お、おいっ、アレってコロンビアのジェペスじゃねーか?」
とギャラリーから声が上がる。
ツンツンと逆立った金色の短髪、その両サイドはヒョウ柄に刈上げられている。そして激情と攻撃性と感じさせる鋭い眼光。コロンビア代表フォワード、"野生の巨豹"と恐れられるダミアン・ジェペスだ。
「放せ、このヤロー!」
とジタバタする2人だが、屈強な腕のその男はなかなかその手を放そうとしない。
と、九州の元不良少年・次藤 洋が
「その辺にして薄汚い手を放すタイ。」
とその男の腕をグイと下ろす。
ケンカ慣れしている次藤、迫力でも体格でも負けてはいない。
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ジェペスは、フーンと言うように次藤を一瞥すると立花兄弟を地面に叩きつけるようにブン投げて"手を放した"。
「貴様!!」と激昂しジェペスに掴みかかろうとする次藤。
しかしすかさず
「やめとけ、次藤!」
と言う声がハモり、次藤はモーションを止める。
立花兄弟だ。
身の軽い2人はどうやらうまく受け身をとったようで特にダメージは負っていないようだ。アクロバティックな動きでピョコンピョコンとそれぞれに飛び跳ねて身を起こす。
ホッとする日本イレブン。
その傍らでは、次藤が立花兄弟を助ける一方で弓倉が密かにスマホを構えその一部始終を録画していたのだが、その視界が不意に遮断される。
いつの間にか小柄な猿のようなコロンビア人が視界を遮る位置にそれとなく立ちはだかっている。
チラリと一瞬その事を見て取ったジェペスはなんと不意に次藤に殴りかかる。
「コ、コイツ!正気か!?」と日本イレブン。
が、その時
「Detenerlo!!」
と会場に重低音が響き渡り、ジェペスは思わず手を止めた。
声量が大きいだけでなく、低く恐ろしくよく通る声である。
その上、それほど高圧的ではないにも関わらずどこか有無を言わせない独特の説得力をはらんでいる。
「"プレジデント(大統領)" ディエゴ・ダルバロス!!」
とギャラリー。
声の主は、パラグアイ代表キャプテン、ディエゴ・ダルバロス。
中南米№1ディフェンシブハーフとして名高い男だ。
そのキャプテンシーの高さと絶対的な存在感から"フィールドのプレジデント(大統領)”などと称される事も多い。
そしてその後ろには次藤クラスのフィジカルを持つ大柄で屈強な選手が3人、静かな威圧感を湛えて控えている。
世界最高峰の堅守、と称されるパラグアイのディフェンス陣である。
ジェペスやペルーのピエロタとは対照的な飾り気のないシンプルで武骨な風貌の面々。
そこには実力に裏打ちされた実質本位・質実剛健という言葉がぴったりの重厚な風格が漂う。
と、そこに
「よっ、と!」
とコンドルのように軽くスピーディーにテーブルを飛び越えて登場する一つの影。
小柄だが快活で利発そうな佇まい。
どうやらダルバロスの大声を聞きつけて駆けつけてきたようだ。
メキシコ代表キャプテン、スピード・俊敏性を生かしたキービング能力に加え積極的にオーバーラップを仕掛ける超攻撃型のキーパーである。
相次ぐビッグプレーヤーの登場にすでに興奮気味だったギャラリーは、ここに来ての地元メキシコのスーパーヒーローの登場にもはや大狂乱である。
さらに彼に遅れること数秒、"アステカの5戦士"の異名を持つメキシコ代表のメインメンバーの5人も
「速えーよ、エスパダス」
などと言いながらエスパダスの周囲に駆け寄ってくる。
ルチャリブレと呼ばれるメキシカンスタイルのプロレスを取り入れたプレーを得意とする5人の選手を左右と背後に従える構図になったエスパダスは真っすぐにジェペスを指差して
「事情はよく分らないけど、ここメキシコの地でつまらねートラブルは許さねーぜ!」
と威勢良く言い放つのだった。
中南米カップ 第6話
■第6話 波乱の開幕フェス!(2)■
「サンキュー火野、助かったぜ!」と石崎。
「おう、久しぶりだな、石崎それに日本のみんな。」と火野。
再開に沸く日本イレブンと火野。
と、そこへ長髪をなびかせてしなやかな褐色の肢体の青年が現れる。
「こんなとこにいたのかヒノ。監督が探してたぜ。」
ウルグアイで火野とツートップを組む俊足ストライカー、ラモン・ビクトリーノだ。
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ビジャーロに続いてのビッグプレーヤーの出現にまたもやざわめくギャラリー。
彼は日本イレブンに気付くと
「Hi、ハポネス!今大会、お互い良いプレーしようぜ♪」
と陽気にあいさつするのだった。
ウルグアイは先のワールドユースでは日本に敗退している。
その割には敵愾心の全く感じれないフレンドリーなあいさつだ。
いぶかしむ日本イレブンに気付いた火野はこう語り出した。
「今回、悪いが俺達はお前らをライバルとは思っていないんだ。」
「!?」と日本イレブン。
火野は続ける。
「今回のカップには神5と呼ばれる5人のワールドクラスのトッププレーヤーが出場している。」
なんかどこかの某アイドルグループみたいだな、と思う石崎。
火野はさらに続ける。
「ウルグアイの俺とビクトリーノ、メキシコのエスパダス、コロンビアのフォルテーザ、それにパラグアイのダルバロスだ。
そして優勝国は間違いなくこの5人を擁する4カ国の中から出るだろう、とメディアやファンは予測している。つまりウルグアイ・メキシコ・パラグアイ・コロンビアの中からな」
「!!」と日本イレブン。
「ツバサ・オオゾラ不出場の日本、お前らは今回まったく眼中にないって事さ。」
一本木な火野は、悪気は全くないものの、まったくオブラートに包むこともなく豪快に言い放つのだった。
「...!?」
唖然とし憮然となる日本イレブン。
と、突然どこからかパチパチパチと拍手が鳴り響く。
音のする方を振り返ると、そこには随分と派手で軽い感じの青年が立っている。
明るく染め上げ軽やかにアソばせた髪、どこか狐を思わせる整った派手な顔立ち、片耳にはピアスが揺れている。
「"イケメン俳優" ロメロ・ピエロタ!?」
とギャラリーから声が上がる。
ペルー代表の新星ミッドフィルダー、今大会No.1のテクニシャンと目されるプレーヤーだ。
派手な風貌と美麗なプレースタイルから"フィールドのアクトール(俳優)"とか"イケメン俳優"などと呼ばれ、最近メキメキと注目度を高めているプレーヤーである。
またしてものスタープレーヤーの登場に盛り上がるギャラリー。
ただ一人彼のすぐ近くにいる松山は
「コイツ...!?今どこから現れたんだ..?こんな派手なナリでギャラリーに紛れていたのか...??」
と軽い違和感を覚える。どこか不自然な登場の仕方である。
ピエロタは
「ヘーイ、ヒノ、なかなかナイスな解説ありがとー♪。だけどボクの事も忘れて貰っちゃ困るね~♪」
と陽気に言うと、葵からボールを借りて、おもむろにリフティングを始めた。
ラテンのビートに軽やかで華麗、そしてキザとも言えるテクニック。技術的に卓越しているだけでなく、人を魅了するような華やかな雰囲気を醸し出している。
「す、すげぇ。」と日本イレブン。
「いいぞ~」と盛り上がるギャラリー。
ローマ彫刻のような少し仰々しいポーズでフィニッシュを決めると、一気に盛り上がりを増すギャラリー。
その後、彼はボールを火野の方へと返す。
それまでの柔らかいボールタッチと比べると、少しだけ強めのパス。それに葵から借りたボールなのになぜか火野へ。
しかし、流れるように自然な所作のせいか、その事に違和感を感じた者はあまりいないようだ。
そして右足でトラップする火野の足元をみて、(二ヤリ..)とわずかに口元を緩めるピエロタ。
そして「それじゃあ、またね~♪」
と日本イレブンの脇を駆け抜ける。
ふと彼は火野とのすれ違いざまに、
「そんな怪我で試合に出場していいのかい?」
とポソリとつぶやく。
ガバッ振り返る火野の顔を確認し二ヤリとするピエロタ。
「!!コイツ、カマをかけやがったのか..」
と舌打ちする火野。
そして
(チッ、ロメロ・ピエロタ、嫌な選手だぜ)
と思うのだった。
その後、ピエロタは近づいてくる大柄な一団を認めると、何かを思いついたように日本イレブンのテーブルに置かれているグラスの位置をスッとずらして立ち去るのだった。