キャプテン翼 ◎◎灼熱の中南米カップ ◎◎

日向小次郎を中心とした日本イレブンが、コロンビア・パラグアイ・チリ・ペルーなど中南米の個性豊かなチームやライバルと対戦するオリジナルストーリーです!

中南米カップ 第11話

■中盤のコンキスタドール

チリVS日本、怒涛の3分間以降は一方的な展開が続いた。

試合の流れを掴んで勢いに乗るチリと浮足立ち後手に回る日本。
ディフェンスラインを上げて中盤に数的優位を作り出し激しいプレスをかけ続けるチリに対して、チリの激しいプレスの前にボールを持っている時でさえもボールをキープする事に手一杯で攻勢に転じる事のできない日本。
苦し紛れに前方へロングパスを出してもチリのディフェンスラインが高いので容易にオフサイドをとられてしまう。

【PS4】キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS


「あーっと、これはかなり一方的な展開、中盤は完全にチリによって制圧されています!前半15分日本はまだセンターラインの向こうへ一度もボールを運べていません。」とアナウンサー。

激しいプレスによって何度も低い位置でボールを奪われ、激しいシュートが何度も日本ゴールを襲う。
若林がどうにか防いでいるものの、徐々にパンチングでコーナーに逃げるなど凌ぐシーンが増えている

「なんで攻勢だ。キーパーが若林さんじゃなかったらここまでで何点取られてるか分からねーぜ。」
と日本側ペンチの井沢がつぶやく。

井沢は更に続ける。
「流れが悪いってのもあるけど、その事を差っ引いてもこのチーム相当強いぞ。激しいチャージでガンガン相手を削る5番に、素早い動きで相手を撹乱しこぼれ球をことごとく拾うあのチビ野郎、それに何といっても...」
その後を井出が引き継ぐ。
「うん、このチリの中盤の支配力の中心になっているのは間違いなく10番アンヘル・ビジャーロ
ゲキを飛ばして味方を鼓舞しながら的確に味方に指示を出しつつ、自らも率先して激しいプレスをかける続けているんだな。相手味方双方に対する影響力の大きさ、中盤の支配力の高さから"中盤のコンキスタドール"なんて呼ばれることもあるんだな。ちなみにコンキスタドールっていうのはスペイン語で征服者っていう意味なんだな。」

「中盤のコンキスタドール、征服者…。」

とゴクリとする日本ベンチ。


ベンチでそんな会話が交わされている間にもそのコンキスタドールのよる中盤の支配とチリの攻勢は続く。

そして「日本が失点を許すのは時間の問題...」「もうそろそろか...?」、そんな空気感がスタジアム内を覆い始めた前半30分、またしても弓倉のボールをビジャーロが奪う。
そしてすぐさま左へはたくと、そこにボールに走り込んだガッティが勢いにまかせて強烈なミドルを放つ。

流れや勢いがある時には運もそれに味方をするのか、ボールがディフェンダーに当たりキーパー手前でシュートコースが変わってしまう。
「くっ!」
それでも若林は懸命にパンチングでしのぐ。

しかしサイドにこぼれたボールをピントがすかさず拾い、すばやくセンタリングを上げる。

混戦の中、日本ディフェンダーに競り勝って決定的な位置でトラップしたのはジャーロ

若林の体制がまだ整っていない事を視認すると
「もらったぞ、ワカバヤシ!」
と、ジャーロはシュートモーションに入りながら瞳をギラリとさせる

 

 

 

 

 

中南米カップ 第10話

■ファーストインパク

数秒後。
ピイィィィ――――――――――――!!
ホイッスルが鳴り響き
「さあ、いよいよ日本ボールで試合が始まりました!」
とアナウンサーが告げる。
そして日向がセンターサークルのボールをチョンと若島津へ渡す。
いよいよ試合開始である。


と、そこへチリFW陣がものすごい勢いで詰め寄る。

「!?」

"チリは序盤から激しいプレスを仕掛けてくる"、試合前から情報としては知っていた事だが実際に体感してみるとその勢いと激しさは事前のイメージをはるかに超えてくるものである

あわてて若島津はミッドフィルダー岡野へとボールを下げるが、そこへもすかさず激しいプレスが押し寄せ、彼もおもわずディフェンシブハーフの葵へとボールを下げる。

たちまちの内にフォワードからミッドフィルダーそしてディフェンシブハーフへとボールを下げさせられた日本にさらなるプレスが押し寄せる。
「あわわっ!」っとなった葵はフォローに入ったキャプテン弓倉にあわててボールを渡す。


と、弓倉にボールが渡った瞬間、チリ選手の目の色が変わり、すでにトップギアと思われていたプレスの激しさのギアが急にもう一段上がる。
「なにぃ!?」と日本イレブン。

しかし弓倉は
「させるか!」
読売サッカークラブ生え抜きの選手として磨き抜かれたテクニックで巧みにボールをキープする。

そこへビジャーロが猛然と襲い掛かってくる。
「あーっと、これは早速の両チームキャプテン司令塔同士の対決か!?」とアナウンサー。
キラリと瞳と瞳を交わす2人のキャプテン。

と、2人の選手に注目が集まった瞬間、弓倉のシャツが軽くスッと引っ張られる。
"いたずらっ子"ピントである。

「くっ!」
一瞬注意を逸らされた瞬間、ビジャーロの強烈なショルダーチャージが弓倉を襲う。
ガッ!!
軽く3メートル以上吹っ飛ぶ弓倉。
「あーっと、キャプテン対決を制したのはチリのビジャーロ君!日本キャプテン弓倉君、大きく吹っ飛ばされました、大丈夫でしょうか!?」
どうやらファールではないし怪我もないようだが、サッカーの試合ではあまり見かけないインパクトのある光景である

その瞬間、「Si(よし)!」と軽くガッツポーズをするチリ・エスタージョ監督。
そして「..勝った。」と二ヤリと小さくつぶやく。

観客席では、ウルグアイのビクトリーノが
「Oh,No!!お前のダチずいぶん派手に吹っ飛ばされたなー。
と隣の火野に語りかける。火野は
「ああ、"喧嘩屋"エスタージョ、早速仕掛けてきやがったな。」
と返す。
火野のそんな洞察は当たっていた。


「フルタイム・フルスロットル・ゾーンプレス」。
作戦と言えばこれくらいで具体的な指示をいつもほとんど出さないエスタージョ監督が今回出した唯一の指示がこれだった。


「試合開始直後に背番号7日本キャプテン・ユミクラを集中的・徹底的に叩け」
勝負は先手必勝、初めに一発ブチかまして主導権を取った方が勝つ、そのために相手のアタマを試合直後にぶっ叩く。
エスタージョ監督が立てた単純にして唯一の策がこれだったのである。

試合開始直後にキャプテンが3m以上ふっとばされてボールを奪われる。このインパクトは、日本イレブンを動揺させ、会場の空気を決定づけるのに十分なものだった。

浮足立つ日本と勢いづくチリ、ボールを奪われたのが低い位置という事もあり日本は一瞬にしてバイタルエリアに攻め込まれてしまう。
そしてゴール前の良い位置でボールを受けシュートモーションに入るチリ・10番ビジャーロ
「いくぜ、ワカバヤシ!」
「くそっ!来い、ビジャーロ!」と若林。

ドゴオオ!!
鈍い音を立てて鉄球のような重たいシュートが日本ゴールを襲う。
「くっ!」
しかし若林は横っとびで片手をどうにか届かせてボールの勢いを弱め、すかさずもう一方の手をさし添えてどうにかボールをセーブする。


「あーっと、ビジャーロ君、物凄いシュートでしたが若林君見事にこれをキャッチ!」
とアナウンサー。
「ドオオオオーーー!!」
ワールドクラスのスーパーシュートとファインセーブに大きな歓声とどよめきがスタジアムに響き渡る。

若林は
「ふうッ、なんて重たいシュートだ。プレミアに移籍した元チームメイトからヤツの情報を聞いておいて正解だったぜ。」
とつぶやく。
シュートが異様に重たい、この事を事前に知らずに片手だけでセーブしていたらおそらくボールの勢いに負けてゴールを許していただろう。

「いやー、試合開始からわずか3分、怒涛のチリの攻勢でした!しかしビジャーロ君と若林君、初めのワールドクラスのトッププロ対決を制したのは若林君、ジャーロ君のシュートも物凄かったですが若林君、それ以上の素晴らしいファインセーブでした!」
と興奮気味のアナウンサー。

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しかしこのトッププロ2人の表情はこのアナウンサーの言及とは裏腹の対照的なものであった。

「さすがだな、ワカバヤシ。しかし想定内だ、初めから一撃で仕留められるとは思ってはいないからな。この試合何度でも何度でもシュートを打ち込んでやる。持久戦・消耗戦なら誰にも負けるつもりはないぜ。」と静かなる闘志を燃やすビジャーロ
「ちっ..。」
一方の若林は、このビジャーロの意図を察してか、シュートを受けてまだジンジンとしている左腕の状態を確かめながら憂いの表情である。

中南米カップ 第9話

■開幕戦!チリ vs 日本

波乱含みの開幕フェスから明けて2日後。
メキシコシティにあるサッカースタジアム、エスタディオアステカ、別名アステカスタジアム、世界最大級の収容人数を誇るこのスタジアムにて、中南米カップ開幕戦、チリvs日本の試合が始まろうとしていた。

日本側の控室の日本イレブンもさすがにピリピリとした雰囲気だ。

ホワイトボードには今大会の対戦表が掲げられている。

■Aグループ
チリ、日本、ベネズエラパナマ

■Bグループ
パラグアイ、韓国、コスタリカニカラグア


■Cグループ
ウルグアイ、ペルー、ジャマイカ、グアマテラ

■Dグループ
メキシコ、コロンビア、ボリビアエクアドル

各グループごとに総当たり戦を行ない、その上位2チームが決勝トーナメントに進出できる方式である。

部屋の中央には、軽くウェーブのかかった髪に淡いカラーの入った眼鏡をキラリとさせた中年男性。
今回の日本代表監督、北詰誠である。
名門東邦学園サッカー部の監督として同校を何度も全国優勝に導いたキャリアを持つ智将である。
今大会急な参加決定だったためスケジュールが合わずなかなかオファーに応じてくれる監督がいない中、日向の事情を知ってか唯一オファーに応じてくれたのが北詰監督だったのだ。


「今回のスタメンを発表する!」
彼はそう言うとおもむろにホワイトボードに今日の試合にフォーメーションを張り出した

FW:日向 若島津
OH:弓倉  岡野 沢田
DH:松山 葵
DF:早田 石崎 次頭
GK:若林

今回どうしてもスケジュールの調整がつかず不参加の翼・岬は外れているが
ドイツから昨晩到着したばかりで右腕のケガの完治していない若林も名を連ねている。
大事な初戦、落とすわけにはいかないという北詰監督の決意がみてとれる。


そして北詰監督は続ける。
「対戦相手のチリは、スタミナと運動量の豊富なタフな選手が多いチーム。そしてそれを生かした激しいゾーンプレスを基本戦術とするチームだ。ゾーンプレスは通常はスタミナを消耗するから試合の要所要所スポットで使うのがセオリーだがチリは試合中通してフルスロットルのプレスをかけ続ける「フルタイムフルスロットルゾーンプレス」を基本戦術としている。
前半からそして前線からガンガン激しいプレスを仕掛けくる。押し込まれないように試合を進めてくれ!」

どうやら中盤を制圧されないためのダブルボランチ中盤厚めの布陣のようだ。

「フルタイムでゾーンプレスってどんなブラック戦術だよ..。」
とスタミナと気合には自信のある石崎もさすがに引いている。


「続けて僕が要チェック選手について解説するんだな。」
井出が前に出て解説を始める。

チームの中心になるのは何といっても背番号10チリキャプテンで司令塔のアンヘル・ビジャーロイングランドプレミアリーグリバプール所属、司令塔としてのゲームメイク能力やキャプテンシーに加えて屈強なフィジカルと試合中ぶっ続けでプレスをかけ続けることのできる無尽蔵のスタミナが持ち味の選手なんだな。標高の高いアンデス山脈の山村で育った事に由来する肺活量やタフさから"アンデスの鉄人"とか"鋼の心臓を持つ男"とか呼ばれているんだな。今年から当たりの強さでは世界最高峰と言われるイングランドプレミアリーグでそのタフさに磨きをかけているんだな。」

「フェスで会ったボール押さえ込みヤローか...。」「"アンデスの鉄人"アンヘル・ビジャーロ...。」
ゴクリとする日本イレブン。

井出はさらに続ける。
「もう一人のキープレーヤーは背番号7のミッドフィルダー、"いたずらっ子"イバン・ピント。小柄ながらも敏捷性と運動量に長けた選手で特にこぼれ球を拾う上手さに関しては世界でも屈指と言われているんだな。それに加えて南米選手特有のマリーシア(ずる賢さ)も持ち合わせているんだな。中盤を駆け回って相手を引っかき回すタイプの選手なんだな。」

「あのイタズラちび助かー。」と葵が自分もチビである事は棚に上げてつぶやく。

井出はさらに付け加える。
「もう一人挙げるとするなら、背番号5パワータイプのディフェンシブハーフのホセ・ガッティ。気合いと根性、スタミナとパワーには定評のある選手なんだな。獰猛なチャージと後方からのパワフルなロングシュートは要注意なんだな。」

一方のチリ側控え室。

チリイレブンの中心には日本の北詰監督とは対照的なワイルドな風貌のエスタージョ監督、「フルタイムフルスロットルゾーンプレスの提唱者であり緻密な戦略性こそないものの気合いと勢い、精神論と根性論で選手を盛り上げるタイプの叩き上げのベテラン司令官である。数多くの実戦で培ってきた勝負強さから"喧嘩屋エスタージョ”などと呼ばれている。


「今日もいつもどおりの「炎のフルタイムフルスロットルゾーンプレスでブッチぎっていこうぜー!!Esfuerzate(エスフェルサーテ:頑張れ)!!」とアツくゲキを飛ばす。
「Si!Animo!!」とイレブンも力強くそれに応える。
特に熱狂的なエスタージョ監督信者であるホセ・ガティは異様なまでにアツくなっている。
ムードメーカーのピントも、それほどアツい性格ではないものの面白がってノリノリで場を盛り上げて騒いでいる。

と、イレブンのハイテンションっぷりとは裏腹の口調でキャプテンマークの腕章を右腕に付けながらビジャーロが訊ねる。
「監督、アイツとはまだ連絡がつかないんですか?」


エスタージョ監督は、チッと舌打ちして。
アギラールのヤローか。急に放浪の旅に出て野性を研ぎ澄ませてくるとか言って消息不明になりやがって。
今日中には合流するとか言ってやがったが、戻ってきたとしても当面試合に出すつもりはねー。どうせ予選リーグやツバサ・オオゾラ抜きの日本くらいは奴なしでも余裕だからな。」
と不機嫌そうに答える。


「ドイツブンデスリーガハンブルグの正ゴールキーパーカバヤシ。奴を擁する日本、あまり舐めない方が良いと思いますよ。」
とビジャーロは瞳をギラリとさせる。
どうやら同じ世界クラスのトッププロである若林をかなり意識しているようだ。

数分後、ピッチにはすでに両チームイレブンが散り始め、間もなく試合が始まろうとしている。
チリの選手は、身長こそ欧米人ほどは高くないものの、ヨーロッパ人とアメリカインディアンの混血であるメスティーソ多くがっしりとした体形に褐色の肌、日本イレブンと比べるとかなりタフそうである。

アナウンサーが解説を始める。
「さあ、いよいよ中南米カップ開幕戦、チリVS日本の試合が始まろうとしています。それでは両チームのスターティングメンバーを発表いたします。
まず日本。フォワード9番コジロー・ヒューガ、15番ケン・ワカシマヅ、...」
と続き
「...ゴールキーパー1番ゲンゾー・ワカバヤシ」

と若林がアナウンスされたところで一際大きな歓声が上がる。
さすがにドイツブンデスリーガのトッププロ、ここ中南米メキシコの地でも知名度・注目度はかなり高いようだ。

アナウンサーは続ける。
「続いてチリ、フォワードは....そして、ミッドフィルダー 10番アンヘル・ビジャーロ、..」
ここでは若林の時よりもさらに大きな歓声が上がる。
ここ中南米メキシコの地ではビジャーロの方が知名度は若林よりも上のようである。

続いて
「7番ティト・ピント、ディフェンシブハーフ5番ホセ・ガッティ...」
とアナウンスされると、ここでもなかなか大きな歓声が上がる。

来期からブラジルのサントスへの移籍が決まっているピントとチリのトップチームCSDコロコロの主力選手であるガッティもなかなかの人気である。

と、ディフェンダーの石崎がわざわざフォワードの方へかけよって
「オーイ日向ー、同じプロでも1部と2部だと知名度に差があるみてーだな(笑)。
とイタリア2部リーグ・セリエBに所属し今回は特に歓声の挙がらなかった日向を軽くからかう。

てっきりシバかれると身構えていた石崎だが、日向は全く気にする様子もなく
「みてーだな、試合後にはその評価、一変させてやるぜ。」
と瞳をギラリとさせている。

(ハハッ、そういやこーゆうヤツだったな..)
と呆れる石崎だった。

 

灼熱の中南米カップ - 目次 -

 

第1話 太陽の国の日向

第2話 蠍(サソリ)と死神の呪縛

第3話 "左の死神" ハメス・フォルテーザ

第4話 上陸!メキシコシティ

第5話 波乱の開幕フェス!(1)

第6話 波乱の開幕フェス!(2)

第7話 夕闇の邂逅(1)

第8話 夕闇の邂逅(2)

第9話 開幕戦!チリ vs 日本

第10話 ファーストインパクト

第11話 中盤のコンキスタドール

第12話 反撃へのムチャぶり!?

第13話 堕ちたエース

第14話 格好悪くても...

第15話 最後の1ピース

第16話 パタゴニアの暴れん坊

第17話 チリの復権

第18話 名君&暴君

第19話 嵐の大地の荒くれ者

第20話 "SGGK"の由縁

第21話 アディショナルタイムの攻防

第22話 躍動する列強プレーヤー

第23話 開戦!メキシコVSコロンビア

第24話 メキシコの奇襲

第25話 フォルテーザ立つ 

【PS4】キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS

 

(続く)

中南米カップ 第8話

■ 夕闇の邂逅(2) ■

 

メキシコ代表キャプテン・エスパダス、パラグアイ代表キャプテン・ダルバロス、2人のビッグネームに差し挟まれる形になったジェペス
しかも2人はそれぞれ強力な代表メンバーを引連れている。

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エスパダス...!」
ギリっと歯を鳴らすジェペス

さすがに多少気圧されてはいるが、怒りは収まっていないようだ。
そしてその怒りの矛先は、後から突如現れて会場の空気をすべて味方に付けてしまったエスパダスへと向けられている。

と、そこにジェペスの肩に手を置いて
「この辺にしておけ。」
と言ってスッと前面に出る一つの黒い影。

金色のラフな長髪、引き締まったしなやかな褐色の肢体。そして左腕にはサソリのタトゥー。

「ハ、ハメス...フォルテーザ...!」
"左の死神"と恐れられるコロンビア代表キャプテン、ダークヒーローの登場にギャラリーから低いどよめきが起こる。。
地元のスーパーヒーロー、エスパダスの登場時の熱狂とは対照的な冷気を帯びた不穏なざわめきが会場に伝播してゆく。
メキシコのエスパダス、パラグアイのダルバロス、それにコロンビアのフォルテーザ、図らずも今大会のビッグネームが並び立つ事となり、独特のピリピリとした緊張感、そして一瞬の静寂が会場に漂う。

「Hey、エスパダス。」
そのピリつく空気と一瞬の静寂を切り裂いたのはフォルテーザである。

「この大会、俺達コロンビアの初戦の相手はお前らメキシコ、仲良くヤろーぜ♪」
と言いながら1枚の用紙をエスパダスの方へパチンとはじいて渡す。
今大会の対戦表である。すでに会場のどこかで発表されているようだ。

「!!」とメキシコのアステカ5戦士。
「ヒュウッ♪」と口を鳴らすコロンビアのジェペス
そして「うおー、マジかー!!」と一気に盛り上がるギャラリー。

空気が変わりジェペスの暴挙からギャラリーの関心が逸れた事を見て取るとフォルテーザは、行くぜ、というように首をくいと動かして、コロンビアイレブンを促し、その場を立ち去るのだった。

 その傍ら、死角になる位置のサボテンの木の陰。

「チェッ、ざ~んねん。せっかく面白くなりそうだったのに~。」
隠れてドリンクを飲みながら一部始終を高みの見物していた一つの影が呟く。

このトラブルを仕組んだ張本人ペルーの"イケメン俳優"ピエロタだ。
残り少なくなったドリンクをだらしなくチューチューさせていた彼だったが、不意に冷たく鋭い視線に気づく。

視線の元に目をやると、フォルテーザが立ち去り際にピエロタの方を一瞥している。

すべてを見透かすような怜悧な眼光。口元はわずかにニヤリと緩んでいる。

 

「お~コワいコワい♪」
おどけたように一人つぶやくピエロタだったが、そのこめかみには一筋の冷たい汗が滴り落ちていた。

キャプテン翼小学生編 日向小次郎考察

中南米カップ 第7話

■夕闇の邂逅① -- フィールドのプレジデント -- ■

「まったくさっきのチリの2人と言い今回のイケメンチャラ男と言い、南米って濃い~ヤローばっかだな。」
と呆れる石崎。

午後5時に始まったフェスはそろそろ午後6時、メキシコの紅い太陽は黄金色の光を帯び始め、かなりその傾きを増してきている。

いわゆる"逢魔が時"、日本ではそう呼ばれる時間帯である。
一説によればこの時間帯、人はバイオリズムの関係で判断力や認知力が著しく低下するのだとか..。

と、突然背後で怒号が鳴り響いた。
「Que estas xxx xxxx ...!!」

振り返ると、なんと立花兄弟が凶悪そうな大柄の男に胸ぐらをつかまれている。
左右それぞれの腕で2人を掴みあげているのだ。
その屈強な両腕にはヒョウ柄のタトゥーが一面に施されている。

床には散乱するドリンクカップ
どうやら立花兄弟の落してしまったカップの飲み物がその男にかかってしまったようだ。

軽量の立花兄弟は完全に地面から浮いてしまっている。

「お、おいっ、アレってコロンビアのジェペスじゃねーか?」
とギャラリーから声が上がる。

ツンツンと逆立った金色の短髪、その両サイドはヒョウ柄に刈上げられている。そして激情と攻撃性と感じさせる鋭い眼光。コロンビア代表フォワード、"野生の巨豹"と恐れられるダミアン・ジェペスだ。

「放せ、このヤロー!」
とジタバタする2人だが、屈強な腕のその男はなかなかその手を放そうとしない。

と、九州の元不良少年・次藤 洋が
「その辺にして薄汚い手を放すタイ。」
とその男の腕をグイと下ろす。
ケンカ慣れしている次藤、迫力でも体格でも負けてはいない。

次藤率いる比良戸中学 VS 南葛中学です(*^^*)!!

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ジェペスは、フーンと言うように次藤を一瞥すると立花兄弟を地面に叩きつけるようにブン投げて"手を放した"。

「貴様!!」と激昂しジェペスに掴みかかろうとする次藤。

しかしすかさず
「やめとけ、次藤!」
と言う声がハモり、次藤はモーションを止める。
立花兄弟だ。
身の軽い2人はどうやらうまく受け身をとったようで特にダメージは負っていないようだ。アクロバティックな動きでピョコンピョコンとそれぞれに飛び跳ねて身を起こす。
ホッとする日本イレブン。

その傍らでは、次藤が立花兄弟を助ける一方で弓倉が密かにスマホを構えその一部始終を録画していたのだが、その視界が不意に遮断される。
いつの間にか小柄な猿のようなコロンビア人が視界を遮る位置にそれとなく立ちはだかっている。

チラリと一瞬その事を見て取ったジェペスはなんと不意に次藤に殴りかかる。
「コ、コイツ!正気か!?」と日本イレブン。

が、その時
「Detenerlo!!」
と会場に重低音が響き渡り、ジェペスは思わず手を止めた。
声量が大きいだけでなく、低く恐ろしくよく通る声である。
その上、それほど高圧的ではないにも関わらずどこか有無を言わせない独特の説得力をはらんでいる。

「"プレジデント(大統領)"  ディエゴ・ダルバロス!!」
とギャラリー。

声の主は、パラグアイ代表キャプテン、ディエゴ・ダルバロス。
中南米№1ディフェンシブハーフとして名高い男だ。

そのキャプテンシーの高さと絶対的な存在感から"フィールドのプレジデント(大統領)”などと称される事も多い。

そしてその後ろには次藤クラスのフィジカルを持つ大柄で屈強な選手が3人、静かな威圧感を湛えて控えている。
世界最高峰の堅守、と称されるパラグアイのディフェンス陣である。

ジェペスやペルーのピエロタとは対照的な飾り気のないシンプルで武骨な風貌の面々。
そこには実力に裏打ちされた実質本位・質実剛健という言葉がぴったりの重厚な風格が漂う。

対峙するジェペスパラグアイの選手達...。

と、そこに
「よっ、と!」
とコンドルのように軽くスピーディーにテーブルを飛び越えて登場する一つの影。
小柄だが快活で利発そうな佇まい。
どうやらダルバロスの大声を聞きつけて駆けつけてきたようだ。

「うおおおー、"ミラクルキーパー"エスパダス!!」

メキシコ代表キャプテン、スピード・俊敏性を生かしたキービング能力に加え積極的にオーバーラップを仕掛ける超攻撃型のキーパーである。

相次ぐビッグプレーヤーの登場にすでに興奮気味だったギャラリーは、ここに来ての地元メキシコのスーパーヒーローの登場にもはや大狂乱である。

さらに彼に遅れること数秒、"アステカの5戦士"の異名を持つメキシコ代表のメインメンバーの5人も
「速えーよ、エスパダス」
などと言いながらエスパダスの周囲に駆け寄ってくる。

ルチャリブレと呼ばれるメキシカンスタイルのプロレスを取り入れたプレーを得意とする5人の選手を左右と背後に従える構図になったエスパダスは真っすぐにジェペスを指差して
「事情はよく分らないけど、ここメキシコの地でつまらねートラブルは許さねーぜ!」
と威勢良く言い放つのだった。

 

中南米カップ 第6話


■第6話 波乱の開幕フェス!(2)■

「サンキュー火野、助かったぜ!」と石崎。
「おう、久しぶりだな、石崎それに日本のみんな。」と火野。

 再開に沸く日本イレブンと火野。

 

と、そこへ長髪をなびかせてしなやかな褐色の肢体の青年が現れる。
「こんなとこにいたのかヒノ。監督が探してたぜ。」
ウルグアイで火野とツートップを組む俊足ストライカー、ラモン・ビクトリーノだ。

↑↓日本🆚ウルグアイについては、こちらがおすすめです(*^^*)!

ジャーロに続いてのビッグプレーヤーの出現にまたもやざわめくギャラリー。

彼は日本イレブンに気付くと
「Hi、ハポネス!今大会、お互い良いプレーしようぜ♪」
と陽気にあいさつするのだった。

ウルグアイは先のワールドユースでは日本に敗退している。
その割には敵愾心の全く感じれないフレンドリーなあいさつだ。

いぶかしむ日本イレブンに気付いた火野はこう語り出した。
「今回、悪いが俺達はお前らをライバルとは思っていないんだ。」

「!?」と日本イレブン。

火野は続ける。
「今回のカップには神5と呼ばれる5人のワールドクラスのトッププレーヤーが出場している。」
なんかどこかの某アイドルグループみたいだな、と思う石崎。
火野はさらに続ける。
ウルグアイの俺とビクトリーノ、メキシコのエスパダス、コロンビアのフォルテーザ、それにパラグアイのダルバロスだ。
そして優勝国は間違いなくこの5人を擁する4カ国の中から出るだろう、とメディアやファンは予測している。つまりウルグアイ・メキシコ・パラグアイ・コロンビアの中からな」
「!!」と日本イレブン。
「ツバサ・オオゾラ不出場の日本、お前らは今回まったく眼中にないって事さ。」
一本木な火野は、悪気は全くないものの、まったくオブラートに包むこともなく豪快に言い放つのだった。
「...!?」
唖然とし憮然となる日本イレブン。

と、突然どこからかパチパチパチと拍手が鳴り響く。

音のする方を振り返ると、そこには随分と派手で軽い感じの青年が立っている。
明るく染め上げ軽やかにアソばせた髪、どこか狐を思わせる整った派手な顔立ち、片耳にはピアスが揺れている。
「"イケメン俳優" ロメロ・ピエロタ!?」
とギャラリーから声が上がる。


ペルー代表の新星ミッドフィルダー、今大会No.1のテクニシャンと目されるプレーヤーだ。
派手な風貌と美麗なプレースタイルから"フィールドのアクトール(俳優)"とか"イケメン俳優"などと呼ばれ、最近メキメキと注目度を高めているプレーヤーである。


またしてものスタープレーヤーの登場に盛り上がるギャラリー。

ただ一人彼のすぐ近くにいる松山は
「コイツ...!?今どこから現れたんだ..?こんな派手なナリでギャラリーに紛れていたのか...??」
と軽い違和感を覚える。どこか不自然な登場の仕方である。

ピエロタは
「ヘーイ、ヒノ、なかなかナイスな解説ありがとー♪。だけどボクの事も忘れて貰っちゃ困るね~♪」
と陽気に言うと、葵からボールを借りて、おもむろにリフティングを始めた。

ラテンのビートに軽やかで華麗、そしてキザとも言えるテクニック。技術的に卓越しているだけでなく、人を魅了するような華やかな雰囲気を醸し出している。
「す、すげぇ。」と日本イレブン。
「いいぞ~」と盛り上がるギャラリー。

ローマ彫刻のような少し仰々しいポーズでフィニッシュを決めると、一気に盛り上がりを増すギャラリー。

 

その後、彼はボールを火野の方へと返す。
それまでの柔らかいボールタッチと比べると、少しだけ強めのパス。それに葵から借りたボールなのになぜか火野へ。

しかし、流れるように自然な所作のせいか、その事に違和感を感じた者はあまりいないようだ。

 

そして右足でトラップする火野の足元をみて、(二ヤリ..)とわずかに口元を緩めるピエロタ。

そして「それじゃあ、またね~♪」
と日本イレブンの脇を駆け抜ける。

 

ふと彼は火野とのすれ違いざまに、
「そんな怪我で試合に出場していいのかい?」
とポソリとつぶやく。
ガバッ振り返る火野の顔を確認し二ヤリとするピエロタ。

「!!コイツ、カマをかけやがったのか..」
と舌打ちする火野。
そして
(チッ、ロメロ・ピエロタ、嫌な選手だぜ)
と思うのだった。

その後、ピエロタは近づいてくる大柄な一団を認めると、何かを思いついたように日本イレブンのテーブルに置かれているグラスの位置をスッとずらして立ち去るのだった。