■中盤のコンキスタドール
チリVS日本、怒涛の3分間以降は一方的な展開が続いた。
試合の流れを掴んで勢いに乗るチリと浮足立ち後手に回る日本。
ディフェンスラインを上げて中盤に数的優位を作り出し激しいプレスをかけ続けるチリに対して、チリの激しいプレスの前にボールを持っている時でさえもボールをキープする事に手一杯で攻勢に転じる事のできない日本。
苦し紛れに前方へロングパスを出してもチリのディフェンスラインが高いので容易にオフサイドをとられてしまう。
「あーっと、これはかなり一方的な展開、中盤は完全にチリによって制圧されています!前半15分日本はまだセンターラインの向こうへ一度もボールを運べていません。」とアナウンサー。
激しいプレスによって何度も低い位置でボールを奪われ、激しいシュートが何度も日本ゴールを襲う。
若林がどうにか防いでいるものの、徐々にパンチングでコーナーに逃げるなど凌ぐシーンが増えている。
「なんで攻勢だ。キーパーが若林さんじゃなかったらここまでで何点取られてるか分からねーぜ。」
と日本側ペンチの井沢がつぶやく。
井沢は更に続ける。
「流れが悪いってのもあるけど、その事を差っ引いてもこのチーム相当強いぞ。激しいチャージでガンガン相手を削る5番に、素早い動きで相手を撹乱しこぼれ球をことごとく拾うあのチビ野郎、それに何といっても...」
その後を井出が引き継ぐ。
「うん、このチリの中盤の支配力の中心になっているのは間違いなく10番アンヘル・ビジャーロ。
ゲキを飛ばして味方を鼓舞しながら的確に味方に指示を出しつつ、自らも率先して激しいプレスをかける続けているんだな。相手味方双方に対する影響力の大きさ、中盤の支配力の高さから"中盤のコンキスタドール"なんて呼ばれることもあるんだな。ちなみにコンキスタドールっていうのはスペイン語で征服者っていう意味なんだな。」
「中盤のコンキスタドール、征服者…。」
とゴクリとする日本ベンチ。
ベンチでそんな会話が交わされている間にもそのコンキスタドールのよる中盤の支配とチリの攻勢は続く。
そして「日本が失点を許すのは時間の問題...」「もうそろそろか...?」、そんな空気感がスタジアム内を覆い始めた前半30分、またしても弓倉のボールをビジャーロが奪う。
そしてすぐさま左へはたくと、そこにボールに走り込んだガッティが勢いにまかせて強烈なミドルを放つ。
流れや勢いがある時には運もそれに味方をするのか、ボールがディフェンダーに当たりキーパー手前でシュートコースが変わってしまう。
「くっ!」
それでも若林は懸命にパンチングでしのぐ。
しかしサイドにこぼれたボールをピントがすかさず拾い、すばやくセンタリングを上げる。
混戦の中、日本ディフェンダーに競り勝って決定的な位置でトラップしたのはビジャーロ。
若林の体制がまだ整っていない事を視認すると
「もらったぞ、ワカバヤシ!」
と、ビジャーロはシュートモーションに入りながら瞳をギラリとさせる。